スマートフォン(モバイル・コミュニケーション事業)は営業損益段階で971億円の赤字だが、構造改革によって、ほかの事業はバランス良く稼げるようになった。ソニーとしては、サード・ポイントの要求はおいそれと飲めるものではない。
サード・ポイントの要求は、今回が初めてではない。
13年5月、ソニー株の保有を公表し、ピーク時には7%ほど保有していた。平井一夫CEO(当時)に書簡を送り、映画などエンターテインメント事業を分離し、米国で上場するよう提案。ソニー側は拒否したものの、同事業の情報開示の拡充を迫られた。
ローブ氏は14年、ソニー株の売却を公表した。この際、「20%近い売却益を得た」とした。19年に入り、ソニー株への再投資が明らかになった。今回の狙いは前回同様、株価の吊り上げだろう。
前回の交渉相手だった平井氏は今年6月の株主総会後に取締役会長を退任し、シニアアドバイザーとなった。交渉相手となる吉田社長は、財務部や社長室など財務畑の出身。切った張ったの修羅場で渡り合った経験は乏しい。ローブ氏は、「吉田氏は与しやすい」と踏んでいる可能性がある。
それにしても、ソニーをなぜ2回も狙われたのか。それは、複合企業は経営効率が悪いと判断しているからだろう。多くの事業を抱えると、ひとつの事業が振るわなくてもほかの事業で補える。だが、投資家からは割り引かれて評価されがちだ。好調な事業で稼いだ資金を、業績が振るわない事業に回されることに対して、投資家は不満を募らせる。好調な事業で稼いだ利益は、そのまま株主に還元すべきだというのが彼らの基本的スタンスである。
エンターテインメント事業の売却を提案したとき、タイムリーにソニー株式を買い増し株価の吊り上げに成功した。今回、2匹目のドジョウを狙う。ソニー株の年初来安値は、3月25日の4507円。半導体分離報道によって、7月5日には5976円の年初来高値をつけた。目標ラインは、18年9月28日の高値6973円。株価を吊り上げるために、これからも小出しに買い増しを続けるだろう。
その都度、ローブ氏が日本や欧米のメディアに登場する回数が増えそうだ。
(文=編集部)