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武田薬品、「グローバル企業」標榜の欺瞞…国際標準的な役員報酬減額ルール導入を拒否

文=編集部
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武田薬品・東京本社(「Wikipedia」より)

 武田薬品工業の株主総会は、創業一族と外国人経営者の対立が恒例となっている。昨年の総会はアイルランドのバイオ医薬品大手シャイアーの巨額買収を表明した直後であり、買収に反対する一部の創業一族と武田薬品のOB株主でつくる「武田薬品の将来を考える会」が「大型買収について株主総会の事前決議の義務付け」を株主提案した。だが、提案への賛成率は9.44%にとどまり、否決された。

「考える会」は今年、取締役に報酬を返還させるクローバック条項を提案し、過半数の支持を得た。特別決議なので3分の2の賛成が必要なため否決されたが、事実上、「考える会」は勝利したことになる。

 武田薬品の定時株主総会は6月27日午前10時、横浜市西区みなとみらいのパシフィコ横浜 国立大ホールで開かれた。

 1949年に株式を上場以来、創業の地である大阪で総会を開いてきたが、今年は主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が大阪で開催されるため、横浜市に移した。その影響か、参加人数は1099人と昨年(3091人)を大きく下回った。来年は大阪で開く予定だ。

 6兆2000億円を投じてシャイアーの買収を完了し、最初の総会となった。

 クリストフ・ウェバー社長兼CEO(最高経営責任者)は、世界最大市場の米国に強みを持つシャイアーの買収について、「革新的な新薬を創出し、世界中で製品を販売できる規模を得た」と自信を示した。そのうえで「世界第2位市場の中国でも、5年以内に10品目以上の販売を目指したい」と語った。

クローバック条項とは何か

 今年の総会でもっとも関心を集めたのは、買収で巨額損失が発生した場合、役員報酬の一部を返還させるクローバック条項を定款に盛り込むように求める「考える会」の株主提案だった。具体的には「過去の過大投資の減損損失が出たり、過年度決算の修正が起きたりした場合には報酬額を算定し直し、返還または減額させる」といった文言の追加などを提案した。

 クローバック条項とは、巨額損失や重大な不正会計が発生した場合、支給済みの業績連動報酬を会社に強制的に返還させる条項だ。欧米では2008年の金融危機後に、金融会社などで導入が進んだ。現在、米製造業では9割以上が導入しているという。

 日本では野村ホールディングスや三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループなど金融機関で導入済みだ。製造業では、アサヒグループホールディングス、コニカミノルタ、横河電機、日本板硝子、ヤマハが導入している。

 武田薬品の外国人株主は50.74%(19年3月期末時点)と5割を超える。外国人株主に影響を与える議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)、米グラスルイスが共に同条項に賛成を推奨しており、どの程度、賛成を集めるかに関心が高まった。

 クローバック条項導入という株主提案に、会社側は反対を表明した。株主総会の招集通知では、「クローバック条項を定款に明記すれば、取締役の経営判断が不必要に保守的となり、結果的に株主の利益にならない」と指摘した。

「考える会」の提案は、シャイアー買収に6兆2000億円という巨額を投じながら武田薬品の成長に結び付けられなかった際の経営陣の責任を明確にするのが狙いだ。

 株主総会で、「考える会」代表代行で創業一族の武田和久氏が「グローバル企業を標榜するならば、グローバルの論理をもって制度構築をすべきだ」と意見表明すると、株主から大きな拍手が湧き起こったという。

 武田薬品は、シャイアー買収によってメガファーマ(巨大製薬会社)の仲間入りを果たした。フランス人のウェバー社長を筆頭に、経営中枢は欧米の大企業出身の外国人が占める。グローバル企業の旗印を掲げるなら、欧米のほとんどの企業が導入している同条項を取り入れないのは筋が通らないと「考える会」は迫ったわけだ。

報酬は自主返上するのが日本企業の文化

 株主提案は定款変更に伴う特別決議だった。可決には出席株主の3分の2以上の賛成が必要で、ハードルは極めて高い。52.20%の賛成を得て過半数を制したが、3分の2以上には達せず、結果的に株主提案は否決された。

 ただ、取締役会議長の坂根正弘氏(コマツ相談役)は総会で、「遅くとも来年5月あたりには(クローバック条項に関する)我々の考え方を表明したい」と前向きな発言をした。こう発言せざるを得ないだけの支持が広がったからにほかならない。

 同条項を導入済みの日本企業でも、定款で規定しているのではなく内規だ。武田薬品は坂根取締役会議長の「クローバック条項を内規として導入することを検討する」との書簡を、6月17日に公表していた。書簡の眼目は「ウェバー社長の再選を支持する意向」だったが、クローバック条項で武田側ははっきりと株主に譲歩した格好となった。

 総会後、武田和久氏は「一定の成果はあった。今後も厳しく監視していく」と、事実上の勝利宣言をした。

 専門家の間では「グローバル企業なら欧米で標準的な同条項を導入しないのは筋が通らない」「企業価値の持続的向上のためには導入すべきだ」といった意見が多い。英国の企業統治規則では「導入しない場合」の理由の説明を義務付けている。

「考える会」は17年の総会で元社長兼CEOの長谷川閑史取締役(当時)の解任、18年は大型買収の事前決議の株主提案をしたが、いずれも否決された。3回目の今年の総会では、採決では敗れたものの、大きな実を取った。

 日本でクローバック条項が注目されなかったのは、不適切会計や不祥事が起こり、経営上のミスがあれば、役員報酬を自主的に返上することで収拾を図ってきたからだ。銀行や大株主の圧力があるにせよ、日本の会社は経営者の自主性を重んじる性善説の企業文化で回わっている。

 そのため、不祥事があっても、鉄仮面の経営者なら居座り続けることが可能だ。経営者の経営責任を経営者の自主性に任せておいていいのか。武田薬品の株主提案は、日本の企業文化に一石を投じた。果たして会社側の判断は正しかったのだろうか。来年、武田薬品以外にもクローバック条項の導入を求める株主提案が出てくる可能性もある。

取締役の報酬の個別開示は49.65%の賛成

 同じく株主提案の「取締役報酬の個別開示」への賛成率は49.65%だった。これも定款変更に伴う特別決議が必要なため、3分の2に達せず否決された。

 クローバック条項は過半数超え、取締役報酬の個別開示が過半数に迫る賛成を得た意味は大きい。

 ウェバー社長の取締役選任への賛成率は84.30%だった。ISSが再任案に反対を推奨していた。19年3月期のROE(自己資本利益率)が3%と低いことを反対推奨の理由に挙げた。

 ウェバー社長の19年3月期の役員報酬は17億5800万円。18年3月期の12億1700万円から44%増えた。19年3月期決算の上場企業の役員報酬ランキングでは4位である(東京商工リサーチ調べ、6月28日時点)。
(文=編集部)

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