預け入れ限度額引き上げは、自民党の集票基盤である全国郵便局長会(全特)が日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の株式同時上場に向けて求めていた措置だが、当のゆうちょ銀行幹部は「この低金利下では迷惑以外の何物でもない」と苦り切った表情を見せる。全特とゆうちょ銀の思惑が、上場を控えてすれ違っている様子がうかがえる。
自民党の郵政事業に関する特命委員会が6月にまとめた提言は、郵便貯金の預け入れ限度額を現行の1000万円から3000万円に引き上げるというものだ。かんぽ生命保険の契約限度額も現在の1300万円から2000万円に引き上げるという。「限度額が引き上げられれば、預金獲得競争で現場を鼓舞できる」とする全特の要望を自民党が受け入れた格好だ。
すでに日本郵政は東京証券取引所に対し、ゆうちょ銀、かんぽ生命と合わせて3社の同時上場を申請済みである。自民党がこの時期に全特の要望を受け入れる提言をまとめたのは、来年夏の参院選に向け、「全特側に恩を売っておきたい」というのが狙いであることがうかがえる。当然、銀行業界などからは「民業圧迫」との激しい反対論が噴出している。政府は、第三者機関の郵政民営化委員会に最終結論を委ねる意向でいる。
上場に悪影響の懸念も
ところが、自民、全特、民間銀行という三つ巴の「民業圧迫」議論に対し、当事者であるゆうちょ銀側はきわめて冷ややかなのだ。
「限度額引き上げは、金融の現場をまったく知らぬ素人の意見」(ゆうちょ銀幹部)
ゆうちょ銀は民間銀行との関係もあり、住宅ローンなどの融資はできない。すでにメガバンクの2倍近い90兆円の貯金残高を抱えているため、さらに資金が集まったとしても「国債以外に運用先がないからどうにもならない」(同)のが実態だという。
「限度額引き上げにはコンピューターシステムの大規模な切り替えが必要で、多額の出費も強いられることになります。今のような運用難の時代に、預け入れ限度額を増やす改正は、上場時の株価にも悪影響を与える可能性があると危惧されています」(ゆうちょ銀関係筋)
全特は郵便局の窓口業務を担当する郵便局会社の運営母体であり、ゆうちょ銀やかんぽ生命は窓口会社に業務を委託する関係にあるが、全国紙デスクは「いつまでもこれらの利害が一致することはあり得ない」と指摘する。