かんぽ生命保険が顧客に保険を乗り換えさせる際、保険料の二重徴収など不適切な販売をしていたケースが多数発覚した。無保険状態になった高齢者もおり、顧客が不利益を被った恐れのある事案は7月31日現在、18万件を超える。当初発表されていた9万件から倍増した。
6月24日、親会社・日本郵政の定例記者会見で長門正貢社長は「顧客からしっかりサインを頂いている。明確な法令違反があったとは思っていない」と言い切り、謝罪はしなかった。だが、不正の被害は拡大の一途。かんぽ生命の植平光彦社長と日本郵便の横山邦男社長は7月10日、初めて「不適切販売」と認めて謝罪し、2週間前の長門氏の説明から一変した。日本郵政グループ内のガバナンス体制への懸念が強まった。
日本郵便に保険商品の販売を委託している日本生命保険、住友生命保険は販売休止を要請。アフラック生命保険は販売は継続するが、委託しているがん保険について実態調査を開始した。アフラックの郵便局経由の販売は新規契約の約25%(17年度の年換算保険料ベース)を占める。
不正販売が広がった背景には、収益源である金融事業が、維持コストが大きい郵便事業を支えているという構造がある。かんぽ生命の個人向け保険を実際に販売するのは、日本郵便が運営する全国2万局を超える郵便局の局員だ。日本郵便は、かんぽ生命から委託料を受け取っており、局員に過大な販売ノルマを課してきた。郵便局では、ゆうちょ銀行の貯金集めをしながら、投資信託と保険を一緒に売っていた。
問題が常態化する背景の一つに、保険渉外員の給与体系の変更がある。日本郵便、ゆうちょ銀、かんぽ生命の日本郵政グループ3社が上場する半年前の2015年4月、日本郵便は全国に約1万5000人いる保険渉外員の基本給を12%下げ、給料全体に占める歩合給の割合を高めた。基本給だけだと生活が苦しくなるため、無理してでも販売実績を上げ歩合給を稼ごうとした、との指摘がある。
18年度に22件の保険業法違反を確認し、金融庁に届け出ていることからもわかるように、不正は慢性的に行われ、かんぽ生命は以前から、それを把握していたことになる。15~17年度の3年間で51件を確認しており、18年度分を加えると73件の法令違反があった。さらに、17年4月から19年1月の約2年間で計1097件の保険料を全額返金していたことも判明した。こうした返金額の数字は、部長らが出席する社内会議で共有されていた。