安倍政権、韓国輸出規制で日本企業が甚大な被害…韓国政府は日本の“急所”を握っている
日韓貿易戦争の本質は“子供のケンカ”だ
韓国には、日本に植民地支配された恨みがあるのかもしれない。日本には、「自衛隊にレーザー照射したのに韓国が認めない」とか、「過去に片付いたはずの徴用工の問題を蒸し返しやがって」という怒りがあるのかもしれない。
しかし、7月4日に「半導体材料3品目の輸出規制」という“暴力行為”を最初に発動したのは、日本政府である。その後、日本政府が「韓国をホワイト国から除外する」ことを閣議決定し、これに応酬して韓国政府も「日本をホワイト国から外す」決定をするというように、報復合戦へ突入した。
このような“乱闘”で両国はなんの得もないどころか、両国の企業は大きなダメージを被る。その上、日本が輸出規制したフッ化水素がなければ、韓国は半導体を1個も製造できず、その影響は世界中に波及する(プロ野球に例えれば、観客席やテレビ観戦しているファンにも被害が及ぶということか)。
この貿易戦争の本質は、“子供のケンカ”である。そして、最初に輸出規制という“暴力行為”を働いた日本に非があるのではないか? 乱闘騒ぎとなった西武-オリックス戦でも、最初に手を出した佐竹コーチがまず退場となっているではないか。
この日韓両国の子供のケンカを仲裁するには、“大人の審判”が必要だ。しかし、中国と子供のケンカをしている米国には、この審判は無理だ。西武-オリックス戦の乱闘と大きく違う点は、日韓の子供のケンカを仲裁する大人の審判がいないことにある。本当に、誰か(どの国か)、この子供のケンカを止めてくれないだろうか。
“子供のケンカ”がエスカレートするとどうなる?
日本政府が7月4日に発動した輸出規制の影響を表1にまとめた。韓国にとって最も深刻なのは、日本製のフッ化水素がないと、サムスン電子とSKハイニックス合計で世界シェア72.6%のDRAM、同シェア39.4%のNANDがただの1個も製造できなくなることである。
上記のなかでもDRAMが製造できなくなったときの影響は甚大で、仮に2カ月間出荷が止まったとすると、2億3000万台のスマートフォン(14億台超)、4300万台のPC(2億6000万台)、2500万台のタブレット、2785万台のSSD(1億6715万台)、217万台のサーバー(1300万台)および各種デジタル家電の生産に支障を来す(カッコ内は18年の総出荷台数)。
逆に、韓国側は世界シェア72.6%のDRAM、同シェア39.4%のNANDという急所を握っている。NANDについては、キオクシア(旧東芝メモリ)があるから問題ないという人がいるかもしれないが、その考えは甘い。PC、サーバー、スーパーコンピュータなどに搭載されるSSDには、NAND、そのコントローラ、そしてキャッシュメモリとしてDRAMが使われている。したがって、NANDしか製造できない東芝メモリは、DRAMの調達が滞れば、SSDがつくれなくなる。
しかも、サムスン電子のDRAMは他社が追随できないほど最先端を突っ走っており、サムスン電子製のSSDはどこよりも高速で大容量である。今のところ、韓国による日本への輸出規制の対象には、DRAMやSSDは入っていない模様である。しかし、この子供のケンカがエスカレートしていったら、いつなん時、韓国側が“DRAMとSSDの輸出規制”という奥の手を出すかわからない。
東京五輪開催が困難になるかも?
もし、韓国側が「サムスン電子製の先端DRAMと高速大容量SSDを輸出規制の対象」としたら、どのようなことになるだろうか。
筆者は、もしかしたら1年後に迫った東京五輪の開催や運営が困難になるかもしれないという危惧を抱いている。というのは、現在急ピッチで進められている各種のスタジアムや競技場、さらには大会本部の運営などには、さまざまなハイテク機器が使われるはずである。そして、そのハイテク機器には、サムスン電子製の先端DRAMや高速大容量SSDが必要不可欠である可能性が高い。
要するに、韓国側は東京五輪開催という日本政府の急所を握っているかもしれない。その奥の手を韓国側が出してきたら、日本はアウトだ。そうなる前に、なんとか子供のケンカをやめさせたい。
そのためには、先に輸出規制という“暴力行為”を行った日本政府が、大人の対応をすべきであると思う(腹は立つかもしれないが、それしか解決策がないような気がする)。
小池百合子東京都知事、鈴木大地スポーツ庁長官、ならびに東京五輪組織委員の皆様、東京五輪が無事に開催・運営できるようにするために、日本政府への働きかけを、何卒、よろしくお願いいたします。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)