中国「ラッキンコーヒー」スタバを猛追し2年で4500店舗…注文・支払いは事前アプリの先進性
急拡大の中国ラッキンコーヒー、店舗の様子は?
創業からわずか1年半で米国ナスダック市場に上場したラッキンコーヒー(瑞幸咖啡/Luckin Coffee)は、2019年末には中国全土に約4500店舗を展開するとし、猛烈な勢いで事業の拡大を続けている。全3回の第2回となる本稿では、成長著しい中国コーヒー市場で商機をとらえた同社の拡大を支える特徴について、店舗の現地レポートを交えてお届けしよう。
ラッキンコーヒーは店名の英語読みのため、この呼び方だと現地ではほとんど理解してもらえない。中国語では瑞幸咖啡であり、カタカナに音写すると「ルイシン・カーフェーイ」という感じになる。
今回筆者が訪れたのは、広東省南部の深セン市、華強北(フアチャンベイ)にある店舗だ。日本でいうところの秋葉原のような街で、電子部品やPC、スマートフォンなどを扱う店が多い土地柄である。
ラッキンコーヒーのロゴは、青地に鹿かトナカイのような動物のイラストが描かれたもの。この「鹿のような動物」をあしらったデザインは昨今、タピオカミルクティーのスタンドやホテルなど、深センのいわゆるオシャレ系の店舗で見かけることが増えた。中国人は鹿好きになったのだろうか?
ラッキンコーヒーは「カフェではない」?
ラッキンコーヒーの店舗では、コーヒーやフルーツジュースなどのドリンクとクッキーやスコーンなどの軽食が販売されている。そういった意味では、「カフェである」といっても間違いではないだろう。だが、同社は集客、注文、決済など一連の流れをアプリで完結させる独自の接客スタイルを確立しており、その利用体験は旧来のカフェや喫茶店とは大きく異なるものだ。
ラッキンコーヒーを利用する際の基本的な流れは、事前にアプリで注文を済ませ、近くの店舗で出来上がったコーヒーをピックアップする……というものだ。
店舗の内装はシンプルかつミニマルなデザイン。店員たちは黙々とコーヒーを淹れては、ピックアップに来た客にカップを渡していた。筆者が訪れた店舗には、一応カウンター席に5~6脚の椅子が置かれていたが、そこはくつろぐための場というよりは、受け取り待ちの間に利用するためだけに設けられているスペースという印象。長時間滞在しておしゃべりを楽しんだり、PCを開いて作業をしたりする、という場所ではないようだ。
日本の感覚でいえば、「インターネット通販で購入した商品をコンビニで受け取る」という流れに近いかもしれない。スターバックスは店舗を「サードプレイス」と呼び、そこでのくつろぎや体験を主な売りにしている。これに対してラッキンコーヒーの店舗は、効率化された商品受け渡しの場所という意味合いが強い。
店側としては、注文を聞く手間も、レジで支払いを受ける手間もないため効率的だ。また、新規出店のコストを抑え、素早く内装施工ができる点が、スピードで攻めるラッキンコーヒーの強みをより強固なものにしている。
コスト圧縮による値下げで競合から客を奪う
このようなシンプルさと効率のよさは価格の安さにつながっており、ラッキンコーヒーが後発として市場に切り込む際の大きな武器になっている。同店では16オンスサイズのアメリカンコーヒー(ホット/アイス)が21元(約357円)で購入できるが、これと同種サイズがスターバックスでは25元(約425円)となり、2割ほど値段が高い。ラッキンコーヒーの強みはアプリを軸にした接客と簡素な店舗でコストを抑えることで、競合より安くドリンクや軽食を提供できる点にあるのわけだ。
ちなみに、ラッキンコーヒーの一部店舗はソファー席などを設置してスターバックス対抗となる「くつろぎ空間」の導入にトライしている場所もあるが、これが成功するかは未知数。上記店舗を訪れたのとは別の日に、筆者が滞在型の店舗を訪問してみたところ、けん玉で遊んでいる青年がいたことに驚いた。それなりに混み合った店内でビュンビュンとけん玉を振り回すので、こちらは「誰かに当たりはしないか」と気が気ではなく、くつろげたものではなかった。もちろんこのエピソードだけをもって全体を語ってしまうのは乱暴だろうが、滞在型店舗を増やすこととラッキンコーヒーの客層のあり方とは方向性が真逆なのではないか、と思わされる体験ではあった。
肝心の味に関しては、ラッキンコーヒーは決して悪くない。熟練のバリスタが1杯1杯ハンドドリップをするような店のクオリティにはさすがにかなわないものの、中国や日本のスターバックスと比べても極端に劣ることはなく、客の回転が早いためかコーヒーの香りもフレッシュで、「汲み置きの酸化しきったコーヒー」を飲まされるということもなかった。このクオリティを維持できれば、味や品質が理由でラッキンコーヒーが他店に負けるということはないだろう。
実際に店舗を訪れてみた印象は悪くはないが、では果たしてラッキンコーヒーに死角はないのか? 全3回の第3回となる次稿では、そのあたりを考えていきたい。
(取材・執筆=楯雅平、編集=河鐘基【ROBOTEER,Inc.】)
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