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任天堂、“3度目の”中国市場参入に潜む死角…Googleら参入でゲーム業界に地殻変動

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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任天堂、“3度目の”中国市場参入に潜む死角…Googleら参入でゲーム業界に地殻変動の画像1ニンテンドースイッチ(「Wikipedia」より/Elvis untot)

 4月18日、中国広東省は、任天堂のゲーム機「ニンテンドースイッチ」とその専用ゲームソフトの販売を認めた。任天堂は詳細を公表してはいないものの、ゲーム大手テンセントと共同して中国事業を進めるものとみられる。同社にとって、再び中国進出を目指すことは“悲願達成”に向けた大きな第一歩といえるかもしれない。

 2003年、2005年と任天堂は中国市場への参入を目指した。しかし、任天堂は中国での販売を伸ばすことはできなかった。中国のゲーム市場は世界最大だ。中国のインターネットユーザー数は8億人に達するともみられている。任天堂にとって、中国は実に魅力的な、喉から手が出るほど欲しいマーケットである。今回、テンセントという強力な事業パートナーを獲得できたことの意義も大きい。

 同時に、中国事業のリスクは高い。中国では政府の意向が企業経営を大きく左右するからだ。任天堂は、中国ビジネスの収益化に取り組みつつ、新しいヒット商品の創造に取り組み、収益源泉を分散させる必要がある。そのために任天堂が、テンセントや他のIT先端企業とどのように関係を構築していくかに注目したい。

悲願達成に取り組む任天堂

 中国の広東省は、IT大手テンセントに対して、任天堂のゲーム機及びソフトの販売を認めた。現時点で、任天堂が中国全土で事業を展開できるか否かは不透明だが、同社にとってこれは“悲願達成”に向けた大きく、かつ、極めて重要な第一歩だ。

 任天堂にとっての悲願とは、米国と欧州に加え、一大ゲーム市場である中国の需要を取り込み、海外売上高比率を一段と押し上げることだ。それは、同社の成長期待を大きく左右する。中国ゲーム市場への参入は、任天堂がより多くのフリーキャッシュフローを獲得し、新商品やマーケティングプラットフォームの開発を強化するために欠かせない。

 わが国では、少子化と高齢化、および人口の減少が進む。国内のゲーム需要は縮小均衡に向かう。任天堂が成長を目指すには、海外市場の開拓が重要だ。この考えに基づき、同社は海外戦略を強化してきた。その結果、海外売上高比率は上昇傾向で推移し、直近では70%を超えている。うち、約40%が米国、30%弱が欧州だ。ここに中国での売上高を加えることができれば、同社の収益は一段と増えるだろう。

 収益基盤の増強のために任天堂は過去に2度、中国市場に参入した。しかし、いずれも失敗に終わってしまった。失敗の原因は、任天堂が強力なパートナーを得ることができなかったからだろう。中国のゲームユーザーの好みは、わが国とはかなり異なる。任天堂は、中国のゲームユーザーの好みや環境の変化にうまく適応できなかった。ここ数年間、同社の中国戦略は事実上、止まってしまった。

 今回、任天堂は世界のゲーム大手であるテンセントとの協業を決めた。その理由は、同社が中国を代表するIT先端企業であるからだ。米国のIT先端企業を代表する呼称として、“GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)”が知られている。これに対して、中国では“BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)”が急成長を遂げ、米国企業としのぎを削っている。

任天堂が狙う中国での商機

 中国は、世界最大のゲーム市場だ。任天堂はテンセントとともに、広東省を足掛かりにして中国ゲーム市場でのシェアを獲得したい。任天堂には、その自信もあるはずだ。中国において「スーパーマリオ」はよく知られている。1月には、中国共産党の中央政法委員会が、短文投稿サイトにスーパーマリオを模したキャラクターを使った動画をアップロードし、綱紀粛正への取り組みをアピールした(のちに削除)。それほどスーパーマリオは知名度が高い。

 中国市場において、任天堂は人気キャラクターを前面に出して、ニンテンドースイッチとその専用ソフトの販売を増やしたい。任天堂としては、その商機をできるだけ早く手に入れたい。テンセントにとっても、任天堂との協業はオンラインをベースとしたプロダクト・ポートフォリオを分散し、収益を増やすために重要だ。

 ただ、本当にそうした展開が見込めるか否か、現時点ではよくわからない部分がある。なぜなら、中国は米国に比肩する、あるいはそれを上回るペースでIT先端技術を開発し、社会に普及させてきたからだ。

 特に、中国におけるスマートフォンを用いたSNS、フィンテック、モバイルゲームなどの利用者数増加には、世界に類を見ないほどのダイナミズムがある。中国政府としても、デジタル技術を駆使して社会への監視を強めたい。政府は新作ゲームの認可に関しても、オンラインゲームの認可を優先するだろう。

 一方、任天堂は、自前の製品=ゲーム機のシェア拡大を追求してきた。オンラインを軸に発展してきた中国ゲーム市場において、任天堂がゲーム機の販売を増やし、収益につなげることができるか、不確実な部分がある。すでに、米グーグルがクラウドゲーム(エンドユーザーの端末上ではなく、クラウドサーバー上でゲームが進行する)に参入し、ゲーム業界の競争は激化している。これは、任天堂にとって無視できない変化だ。

任天堂が注力すべきデジタル分野

 任天堂にとって、テンセントとの協業は実に大きなチャンスだ。中国事業の収益化と、今後の変化への対応のために、同社はこのチャンスを生かさなければならない。

 市場参加者の間では、任天堂は業績のぶれが大きい企業との見方が多い。過去、任天堂はヒット商品(ゲーム機)に続くヒットを打ち出すことが難しかった。足許の業績に関しても、ニンテンドースイッチの需要が飽和すれば、任天堂の業績は相応のマグニチュードで悪化するのではないかと少なからぬ不安を抱く参加者もいる。

 任天堂に期待したいことは、テンセントのアニマルスピリッツを取り込んで、矢継ぎ早(連続的)に新しいヒット商品の創造を目指すことだ。特に、デジタル売上高(ソフトのダウンロード、コンテンツの購入など)を増やすことは、任天堂の将来を左右するだろう。任天堂のデジタル売上高の割合は、売上高全体の20%程度にとどまっている。

 今後、世界的に、スマートフォンなどモバイルデバイスを用いネット空間にアクセスし、ゲームを楽しむことが増えていくだろう。この展開をもとに考えると、任天堂はデジタル分野の収益力を高めなければならない。特に、グーグルが注力するクラウドゲームは、端末の演算処理能力に負荷をかけることなく、新しいゲームを、高度な画質で楽しむことを可能にする。これは、任天堂にとっても、テンセントにとっても脅威だ。

 任天堂には、テンセントの成長のダイナミズムを取り込みつつ、クラウドゲームなどの新しいゲーム事業に積極的に取り組むことを期待したい。同時に、任天堂はテンセントのネットワークを生かし、当局とも良好な関係を築かなければならない。政府による規制強化というリスクを考えると、その2つを同時に進めることが、任天堂の悲願達成には欠かせない。その上で、任天堂が他のIT先端企業との提携などを進め、ヒット商品を創造できれば、同社の持続的な成長への期待は高まるだろう。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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