一方、世界で突出する日本の個人金融資産1500兆円の約6割、900兆円が60歳以上の富裕層によるものだ。この巨大金融資産が動き出して内需に向かえば、現在のデフレ不況など一発で解消するだろう。
ともあれ、こうした時間も金もたんまりとある、最後の豊穣市場とも言えるシニアマーケットを攻略せよとばかりに、大手流通各社は、新商品や新業態、新サービスの開発に躍起になっている。しかし寡聞にして筆者は、そうしたシニアマーケットを大きく花開かせたような国内成功事例を知らない。
成熟したシニア市場を持つ米国
「ショップス・アット・チノヒルズ」(LA)
そうした彼我の違いの背景にあるのが、文化の差異だ。少なくとも米国には、いわゆるハッピーリタイアメント族をリスペクトする文化がある。たとえばサクセスシニアが居住する街区は、米国ファミリー層垂涎の住宅地でもあり、その近くにあるライフスタイルセンターで日常の買い物や消費をすることが、彼らのステイタスなのだ。
翻って日本には、そんな文化やインフラがそもそも存在しない。それもあり、単にシニアの業態や商品を開発するだけでは、一発ヒットはあり得ても、持続性や市場拡大性に乏しい。加えて団塊シニアは、こだわり屋で気難しい消費層が多いといわれ、余計一筋縄では行かない。
「シニア文化がカッコいい」という情報発信
ではどうすれば、日本で効果的なシニアマーケットの攻略ができるのだろうか?
そのカギを握るのは、「シニア文化がカッコいい」という情報発信にあると思う。前述したように、米国のサクセスシニアと彼らが使うライフスタイルセンターは、若いファミリーはもとより、ヤング層からも憧れの的だ。
一方、国内ではこんな事例がある。やや旧聞に属する話だが、「サライ」(小学館)というシニア向けのライフスタイル雑誌が、カメラのライカの大特集をやったところ、真っ先にそれに反応したのが(通常はサライの読者層ではない)若者たちだったという。その後ライカは、中高年のみならず、若い層にも大人気のカメラになった。大人文化の情報発信における好例である。
その現代版の好例ともいえるのが、昨年末にオープンした「代官山 蔦屋書店」(「代官山 TSUTAYA」)だ。ご存知の方も多いと思うが、同店はおしゃれな若者にも大受けして、東京の人気新名所になっている。
じつはこの店、TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブのオーナー社長である増田宗昭氏(1951年生まれの61歳)が、自分と感性の近い、東京のおしゃれで高感度なシニアのために開発した店とされ、そのコンセプトは「新しい大人文化を提案する街」だ。
ちなみに増田氏は、自身の理想郷的業態でもあるこの「代官山TSUTAYA」をどうしても作りたかったこともあり、あえてカルチュア・コンビニエンス・クラブをMBOで上場廃止にしたとも言われている。
それはともかく、同店は今後のシニア消費を切り開く上での象徴的な成功事例になるのではないだろうか。
(文=月泉博/シーズ代表取締役)