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関電金品受領、原資は市民が払った電気料金だった…「死人に口なし」で元助役=悪を強調

写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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会見する関電の岩根社長(右)と八木会長

「死人に口なし」とはまさにこのこと。さらに、昨年1月の金沢国税局の吉田開発(福井県高浜町)への査察がなければ、驚天動地の金品授受すべてが闇に葬られていた。

 10月2日、大阪市福島区の「堂島リバーフォーラム」に約200人を超える報道陣が終結した。最近、筆者が経験した記者会見ではレスリングの吉田沙保里さんの引退発表以来の盛況ぶり。壇上には関西電力の岩根茂樹社長(電気事業連合会会長)、八木誠会長(関西経済連合会副会長)が座った。

 関電幹部による巨額の金品受領発覚直後、岩根社長が会見したが、「個人情報」を盾に受領者名をはじめ内容の公表を拒否して非難を受け、5日ぶりの再会見となった。

 2人は自らを含めて20人の幹部が、3月に90歳で死去した福井県高浜町の森山栄治元助役から計3億2000万円相当の金品を受け取っていたことへの反省の弁を口にしながらも、長い期間、返せなかった原因を森山氏の強面の人物像のせいだとした。

 金杯、小判――。金品授受の場面はまるで時代劇だ。岩根社長は「社長就任の祝いと言って森山氏に紙袋を渡された。お菓子でも入っているのかと思ったら、お菓子の下に金貨が入っていて、びっくりして金庫に保管させました」と説明した。

 森山氏が8年間で配った3億2000万円には、現金や商品券、ドル紙幣のほか、金貨、金杯、小判、背広の仕立券が含まれていた。一部を除きほぼ返却されているとした。記者には多くが「墨消し」された社内の「報告書」を配り、岩根社長が読み上げた。これは、国税査察後、外部委員の弁護士らに委託してつくらせたものだ。20人の受領者のうち、8人の名を伏せた理由を問われると、岩根氏は「執行役員職以上(のみを開示する)」と答えた。

 20人で3億2000万円。平均すれば1人1600万円だが、なんと2人だけが1億円を超えていた。突出していたのが鈴木聡常務の現金7831万円を含む約1億2000万円、豊松秀己元副社長は1億1000万円である。

 鈴木氏は原子力事業本部の元副本部長で、豊松氏は元本部長だ。同本部は地元の原子力産業の生殺与奪を握る。同本部は2004年に5人が死亡した美浜原発事故を受け、福井県美浜町に移った。この部門のトップたちに、地理的にも近くなった高浜町の森山氏からの金品が集中している。

 岩根社長は150万円と少ない。八木会長は金貨など約860万円。「背広の仕立券は費消してしまいました。あとで高価な(約50万円)ものと知り、お金で返すことを考えています」などと話した。国税査察は7年前までしか遡れない。

 八木会長は原子力事業本部の本部長だった。11年以前には受領していないと考えるほうが不自然だろう。関電が当初、内訳の公表を拒んだのは、受領額1億円を超える役員の存在で大きなニュースにされることを避け、たまたま少額だった社長本人が表に出れば乗り切れると考えたのではないか。

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助役時代の森山氏(高浜町の広報誌より)

市民ではなく株主を恐れている

 そんな大金を森山氏が用意できた理由を問われた八木会長は「わかりません」とシラを切った。森山氏が生前、顧問を務めていた高浜町の地元の吉田開発は、ここ数年で約3倍と受注額を増やした。2人は「福島の事故後、安全対策などの工事が増えた」と説明したが、他業者がおしなべてそうなったわけではない。森山氏は関電の子会社である関電プラント(大阪市)の顧問を30年間務め、ここから吉田開発に工事が発注された。森山氏が発注側、受注側双方の顧問を兼任すれば「利益相反」の疑いもあり、その過程で相当の私腹を肥やせたはずだ。

「『わしの志であるギフト券をなぜ返却するのか。無礼者、わしを軽く見るな』と言われた」

「『トラックで家に突っ込むぞ』と言われた」

「(返そうとした社員は)激しく罵倒、叱責され家族も含めて身の危険を感じることもあった」

 会見で2人は故人の人物像を強調し、森山氏を恐れて返せなかったことを再三、訴えた。それは嘘ではないだろうが、森山氏が存命ならそんな会見はできまい。八木会長は「東日本大震災後の再稼働へ向けて、影響力のある森山氏を怒らせてしまうと高浜での運営がうまくいかないというのが、社内みんなの認識だった」と打ち明けた。

 森山氏が80代半ばになっていた頃に福島第一原発の事故が起きた。悠々自適だった男に、さらに暗躍の場が与えられたのだ。いずれにせよ、原資は筆者ら関西市民が払った電気料金であり、それが還流してバックマージンが関電幹部に回った。

 今回、関電は一般の関西市民のために金品受領の内訳の一部を公表したのではない。株主を恐れたのである。筆頭株主である大阪市の松井一郎市長までが「株主代表訴訟」をちらつかせていたからだ。

 引責辞任を問われた岩根社長は「山積する問題に全力で取り組み、再発防止、原因究明に職務を全うしたい」などと語り、八木会長と共に否定した。「違法ではないから(持ち続けた)」「返したから問題はない」という感覚であることが伝わってきた。記者に巨額受領の鈴木氏と豊松氏の2人が会見することを求められた岩田社長は、「第三者委員会にお任せしますので」と言葉を濁した。

 3時間半以上の会見を終えた八木会長と岩根社長の退室後、この報告書をまとめた人物が登場、記者に概要説明した。小林敬弁護士。どこかで見た顔だなと思ったら、10年に厚労省職員だった村木厚子氏が「郵便不正」の罪で逮捕・起訴された事件で、特捜検事の証拠改ざんが発覚した時の大阪地検の検事正だった。当時、減給処分を食らったが、「ヤメ検」として関西電力の外部委員にしっかりとおさまっていた。

 この会見から7日が経過した10月9日になってようやく、世間からの批判の強まりを受け、関電は八木会長と岩根社長が辞任すると発表した。

(写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト)

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高浜原発

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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