栽培技術については、これもサンフランシスコ郊外にあるカリフォルニア大学デービス校(UCデービス)が深く関与している。UCデービスの農学部はブドウ栽培やワイン醸造について全米屈指、いや世界的な権威ともいえる。そこの教員たちがナパのワイナリーに現在でも足しげく通い、栽培などについて指導しているのである。
ブドウの大敵はフィロクセラというアブラムシで、実はヨーロッパのワインはこの虫のために19世紀末に壊滅的な打撃を受けている。実際、一度は壊滅したといっていいのだが、ブドウ種のほとんどがナパで栽培されていたので、その後はアメリカのブドウの木の上にヨーロッパ各地のブドウの木を接ぎ木するという方法で復活を果たし、さらにアブラムシ対策にもなったという。この対策法を発見したのもUCデービスだった。世界のワインを救った学校といえる。
私が訪れたブドウ畑でも、ブドウの木の間に細い水道管が渡っているのを見た。
「以前はスプリンクラーから水を噴霧していたのですが、今ではこのパイプからそれぞれのブドウの木に必要な水をちょろちょろという感じで給水しています。水の使用量が3分の1減り、さらにこのパイプには必要に応じて肥料や病気防止の薬なども供給されています。そして、それらがすべてコンピュータ管理されています」
このような説明を聞いて一驚した。ヨーロッパのワイナリーがかなわなくなったはずだ。今では、世界でワイン品評会があると上位10社のうち半分以上をカリフォルニア・ワインが占めるようになっている。
近代ビジネスになったナパのワイナリー経営
14年の国際ブドウ・ワイン機構の調査によると、アメリカはワインの消費量世界1位である。一方、生産量では世界第4位だった。圧倒的な消費(需要)に対して、世界最高評価となった地ワインの供給が少ないという構造だ。
ビジネス的に大きなチャンスが目の前に広がっているので、製造適地であるカリフォルニアでのワイナリー活動はますます活発になってきている。しかし「ナパ・ワイン」を名乗るには制約があり、ナパで収穫されたブドウが85%以上使われていなければならない。
辻本氏は、ワイナリーの経営に100億円以上を投じてきたといわれる。ナパ地区にある400のワイナリーは、投資案件としてみれば適当な金額範囲なのか、オーナーには企業家、弁護士、医師、通常の企業などが多い。ワイナリーが単純に農家、農業であるヨーロッパのそれとは運営の趣が違う。ワイナリーとしてのM&Aや、従事する技術者の引き抜きなども多い。