カプコンは2008年に買収防衛策を導入し、2年ごとに株主総会で決議してきた。12年6月の総会では賛成58.92%で可決したが、当時より外国人株主の持ち株比率は10%以上増えた。会社側が提案した継続議案が否決されるのは極めて異例だ。
外国人株主にとって買収防衛策は無用の長物である。M&A(合併・買収)によって高値で株式を第三者に買い取ってもらえれば、儲かるからだ。投資家に議案への賛否を助言する米国の専門会社が、防衛策への反対を勧めたことも逆風になった。
カプコンの創業者である辻本憲三会長兼CEO(最高経営責任者)は、高級ワイナリーのオーナーという顔を持っている。辻本氏は、その波乱万丈の半生でも知られている。定時制高校を卒業後、伯父が経営していた菓子卸業を譲り受けて、商売を始めたが失敗。大阪に出たのち、綿菓子製造機を仕入れ車に積んで鹿児島まで行商。空になった車に、販売を頼まれた子供の遊び向けに改造されたパチンコ台を積み、それを売りながら帰った。これがよく売れたので、遊技機のレンタルに商売替えした。
喫茶店に置かれた業務用インベーターゲームは売れに売れたが、ブームが去り在庫の山が積み上がり、辻本氏は会社を追われた。失敗の教訓を胸に一から出直し、1983年にカプコンを創業。ファミコンブームに乗り家庭用ゲームソフトの事業に参入し、「ロックマン」や「ストリートファイター」をはじめ、国内外でヒット作品を次々と生み出した。90年には株式を公開し、それで得た資金でワイナリーを経営する「ケンゾー・エステイト」を設立。米カリフォルニア州ナパバレーに土地を買い、畑づくりから始めて世界最高級のワイン製造に個人として乗り出した。
●ナパの奇跡
ゲーム事業は浮き沈みが激しいが、これから100年、200年続くビジネスを育てるというのがワインに挑戦した理由だ。1万本のワインを試飲用に購入したり、やっと実をつけるまでに成長した14万本のブドウの木をすべて抜き去り、畑をつくり直したこともある。これまで、ワインづくりに100億円以上の私財を投じた。
そしてついに2008年、「紫鈴(りんどう)」「紫」「藍」と名付けた赤ワインが誕生した。初出荷と同時に絶賛され、全米で1番予約が取りにくいレストランといわれる「フレンチランドリー」のワインリストに加えられた。11年には白ワインの「あさつゆ」が米国の富裕層向けの雑誌で「最高のワイン」の1つに選ばれた。
辻本氏は“ナパ(バレー)の奇跡”といわれるワインをつくり出した。辻本氏としてはカプコンの配当金を高級ワインづくりにつぎ込むためにも、カプコンを買収されたりしたら困る。同社は来年の株主総会で、買収防衛策を再提案する。
(文=編集部)