サイゼリヤの客離れが止まらない。9月の既存店客数は前年同月比0.5%減だった。前年割れは9月 まで22カ月連続。通期ベースでは、2018年8月期が1.9%減、19年8月期が前期比2.3%減と、2期連続でマイナスとなっている。
サイゼリヤといえば、「ミラノ風ドリア」が299円(税込み/以下同)、「ペペロンチーノ」が299円、グラスワインが100円といったように、料理や飲み物が圧倒的に安いことで知られている。グラスワイン4杯、ミラノ風ドリア、ペペロンチーノを注文しても、1000円でお釣りがくるほどだ。この安さが受け、食事の場としてはもちろん、「ちょい飲み」の場としても人気を博すようになり、サイゼリヤで居酒屋代わりにアルコール類を飲む「サイゼ飲み」という言葉が流行った。
そのサイゼリヤで、なぜ客離れが止まらないのか。
まずは「サイゼ飲み」や「ちょい飲み」のブームが一服したことが挙げられる。これらのブームが起きたのは15年ごろだが、それから数年がたちブームが落ち着いた感が出ていた。 それにより客数が減った面があるだろう。
「全席禁煙」を進めたことも大きい。17年末に全店を全席禁煙にする方針を表明。以降、順次改装して全席禁煙化を進めていった。当初は今年9月に全店で全席禁煙が完了する予定だったが前倒しで完了し、6月1日から「全店・全席禁煙」をスタートした。これにより喫煙客が流出した。中長期的には非喫煙客の取り込みで客数増も期待できるが、短期的には喫煙客流出が勝るだろう。
そして「ヒット商品の不在」も大きい。サイゼリヤは圧倒的な安さが人気の元となっているが、これが裏目に出ている面もある。安さが求められているということは、高価格の高付加価値商品を提供することが難しいと考えられる。それだけではなく、低価格品は付加価値を高めることが難しいのでヒット商品は生まれにくいとも言える。これは今のサイゼリヤに不利に働いているのではないか。
「牛丼一筋」を捨てた吉野家
今は、消費者の嗜好の多様化と、飲食店が提供する商品の均質化が進んだ時代だ。そのため、消費者は飲食物に対して飽きやすくなっており、飲食店は斬新的な商品を投入することがかつて以上に求められている。
牛丼チェーンの「吉野家」がわかりやすい例になる。吉野家はかつて「牛丼一筋」を謳っ ていた。非牛丼メニューに力を入れなくても、牛丼に磨きをかけるだけで顧客の支持を獲得することができた。消費者は牛丼だけを求め、それで満足していた。
しかし時代は変わり消費者の嗜好が多様化したため、消費者は「牛丼一筋」に満足できなくなっていった。そのため、吉野家は「牛丼一筋」を実質的に放棄せざるを得なくなり、「から揚げ定食」や「鰻重」といった定番の非牛丼メニューの充実を余儀なくされた。
さらに、ここ数年は定番の非牛丼メニューを充実させるだけでは不十分になっている。非牛丼メニューに加えて「季節メニュー」や「期間限定メニュー」の充実も求められているのだ。消費者の欲求がさらに高まっていると考えられる。
このことは吉野家の19年2月期の既存店業績に端的に表れている。同期の既存店売上高は前期比0.8%増の微増にとどまり、当初計画を大きく下回った。なぜそうなったかというと、季節メニューや期間限定メニューの効果的な投入ができなかったからだ。
具体的には、人気の鍋商品「牛すき鍋膳」を値上げ販売したり、競合が類似商品を充実させたこともあり効果的に売り出せなかったことや、17年冬に発売した人気メニューの「豚スタミナ丼」を18 年は見送ったことが挙げられる。
こうして19年2月期の既存店売上高は伸び悩んだ。しかし、19年3~8月期は一転して前年同期比6.9%増と大きく伸ばすことに成功した。
これは、期間限定メニューでヒット商品を生み出したことが大きい。5月にRIZAPと組んで開発したコメ抜き牛丼「ライザップ牛サラダ」を発売。これがヒットし、発売開始から74日で販売数100万食を突破した。8月にはサーロインを使った「特撰すきやき重」を約50万食限定で発売したが、みそ汁などを付けて860円という吉野家としては高額にもかかわらず、発売からわずか12 日間でほぼ完売した。
こうした期間限定メニューでヒット商品を生み出すことができたため、19年3~8月の既存店売上高は大きく上昇した。特に8月は前年同月比13.9%増と大きく伸びたが、「特撰すきやき重」が大きく貢献したかたちだ。
低価格は武器でもあるが足かせにもなる
このことからもわかるが、今の時代の外食チェーンには期間限定メニューなど非定番メニューの充実が欠かせない。しかし、サイゼリヤは非定番メニューでヒット商品が見当たらない。それにより、新規顧客の獲得に遅れが生じていると考える。
もちろん、サイゼリヤも期間限定メニューや季節メニューを投入していないわけではない。9月から「皮つき新じゃがのチーズグラタン」(399円)を期間限定で販売したほか、3月からスパゲティーの「ナポリジェノベーゼ」(499円)と「ペストジェノベーゼ」を期間限定で販売したりしている。しかし、どれもパンチに欠けた感が否めない。
サイゼリヤは低価格が武器になっているが、それが足かせになっているのではないか。低価格が売りゆえに付加価値が高い商品を生み出せていないように思える。もちろん、低価格というのは消費者にとってありがたいことだ。10月の消費増税ではボトルワインなど一部を除いてほとんどのメニューの税込み価格を据え置いて“実質値下げ”とするなど、サイゼリヤの低価格に対する努力は評価されてしかるべきだ。だが、それだけでは不十分な時代になっている。低価格プラスアルファが求められていると考えるべきだろう。
当然、サイゼリヤも商品投入の重要性は十分認識している。それは18年8月期と19年8月期の取り組みで「お客様を呼べる商品の開発」を挙げていることからもわかる。しかし、話題を呼ぶほどのヒット商品は見当たらない。どれも当たり障りのない商品ばかりだ。現状、言葉だけが踊っていると言わざるを得ない。
こういった状況のため、吉野家の「特撰すきやき重」ぐらいの冒険があってもいいのではないか。低価格ありきの呪縛から自らを解放し、「あのサイゼリヤが!?」と思わせられる高付加価値メニューを開発して耳目を集め、集客を図るべきだろう。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)