また、行政、大学、研究機関、企業、金融機関などのさまざまなプレーヤーが相互に関与し、絶え間なくイノベーションが創出される生態系システムのような環境・状況を指す「イノベーション・エコシステム」を形成し、地域に仕事をつくり、安心して働ける地域発のグローバルイノベーションの創出などが盛り込まれている。
地方創生で、これだけ重要な役割を地方の大学に負わせていれば、地方の国立大学に「地域貢献」以外の選択肢はないというものだろう。そもそも、前述した3択は、結果ありきのものだったのではないか。もし、地方大学に一方では地方創生の役割を担わせ、もう一方では世界水準を選択することを望んでいるとすれば、明らかに大学改革は迷走している。
経営難が深刻化
加えて、少子化の影響で大学経営は岐路を迎えている。大学入学年齢に当たる18歳は1966年に249万人とピークを付け、2014年には118万人まで減少している。この間、大学数は346校から781校までおおよそ倍増した。確かに、大学への進学率は24.5%から53.8%と大きく上昇しているとはいえ、私立大学では定員割れが続出している状況だ。
特に、人口の大都市集中により、地方大学の経営は厳しさを増している。たとえば、東京には全人口の10.54%が住んでいるが、これを大学生に限ってみれば、全国の大学生のうち25.89%が東京で学んでいる。つまり、大学生の4人に1人は東京にいることになる。さらに、私立大学に限定してみると、31.21%が東京の私立大学で学んでいる。これは私立大学生の3人に1人が東京にいることになる。
こうした影響もあり、島根県と高知県には私立大学がなく、他の地方でも経営が立ち行かなくなる大学が出ており、こうした大学に対して地元自治体が経営再建や買収に乗り出し、公立大学として存続させるケースも出ている。
以上の状況に対処するため、政府は「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」で大都市圏への学生集中を抑制する方策として、「大学等における入学定員超過の適正化」を盛り込んでいる。これは、主に大都市圏の私立大学において、定員を上回る学生を受け入れている大学に対しては、補助金を交付しないという措置を厳格に適用するもの。
しかし、これで若者が東京など大都市に来る流れを止めることができるのだろうか。たとえば、私立大学が定員を大幅に引き上げる、あるいは新たな学部を創設する、補助金の代わりに授業料を引き上げる、大都市圏に新たな大学が開校するなど、“抜け道”はいくらでもありそうだ。大学にとって補助金の停止は死活問題でもあり、必死に策を弄するだろう。
このように、安倍政権の進めている大学改革は、大学の置かれた環境、現状を無視した唯我独尊的なものとなっている。本当に必要な大学改革とはどのようなものなのか、再考すべきだろう。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)