ティファニーまで買収したLVMH、ブランドの巨人に…燻るシャネルとプラダ買収の噂
ティファニー銀座本店(写真:當舎慎悟/アフロ)
1.米国を代表するジュエラーの雄“ティファニー”
1961年公開のアメリカ映画『ティファニーで朝食を』は、1958年のトルーマン・カポーティの同名小説を元に映画化され、アンディ・ウイリアムスの主題歌『ムーンリバー』と共に大ヒットとなった。主演のオードリー・ヘップバーンと衣装担当したジバンシィと共にティファニーを世界に知らしめた。
ティファニーは映画の舞台になったニューヨーク5番街の旗艦店を含め米国内に93店舗、世界に321店舗を展開している。米国会計基準による業績は2016年1月期から2期連続で減収となったものの、18年は回復し増収増益を達成。19年1月期は全地域で健闘し売上高は44億2200万ドル(約4797億3600万円)の増収となるも、販管費も増加し営業利益は7億9000万ドル(約853億2000万円)と微減益である。
日本法人は売上高6億3100万ドル(約681億4800万円)、6%増と堅調である。連結決算からの財務面をみても安定している。商品回転率や交差比率(粗利益率×商品回転率で算出。商品が効率よく利益を生み出しているかを測る指標)にほとんど変化は見られない。手元流動資金が減少したために、同比率は少し低下している。D/Eレシオ(負債資本倍率:企業財務の健全性を測る指標)も正常値の0.3倍に収まっている。
そんな182年の歴史を持ち米国を代表するジュエリーブランドが、高級ブランド世界最大手のLVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンによる買収に基本合意した。一株当たりの提示価格は135ドルだと報道されている。
確かに高級ブランド世界最大手の傘下に入ることによるメリットは大きいが、LVMH側が受けるメリットのほうが圧倒的に大きい。LVMHは10月に米テキサス州にルイ・ヴィトンの工房を新設し、落成式にはトランプ米大統領も招くなど、米国市場重視の姿勢を強めている。ティファニーはシルバー商品がメインで、単価も手頃なため若い消費者がブランド商品を購入する“入り口”になりやすく、世界中でミレニアム世代にもなじみは深いブランドとなっている。
2.カシミアを着た狼、ベルナール・アルノー会長の剛腕
LVMHの2018年12月期の売上高は468億ユーロ(5兆6160億円)である。事業別売上比率をみてみると、皮革・ファッション部門(39%)、免税・百貨店(28%)が二大柱で、香水・化粧品、ワインスピリッツと続き、時計・宝飾品部門の比率は10%以下で低い。グループとしては、この時計・宝飾部門の育成が大きな課題であった。
「カシミアを着た狼」と呼ばれるベルナール・アルノー会長がファッションビジネスへ参入したのは、1984年に資金難に陥っていたクリスチャン・ディオールの親会社を買収したのがきっかけだった。その後、ルイ・ヴィトン、セリーヌ、ジバンシィ、フェンディなどを 次々と買収し、グループ全体を成長させてきた。すべてではないが、一時的に苦境に陥っているブランドを安値で買い再生させて資産価値を高めるのがアルノー氏流であり、「カシミアを着た狼」と呼ばれる由縁である。
また、仏エルメスの株を買い集めて同社と裁判所で争いとなったのは記憶に新しい。LVMHは否定しているが、シャネルやプラダの買収を狙っているという噂も業界ではまことしやかに囁かれている。
カルティエに代表される宝飾部門に強いスイスのリシュモングループ、グッチやサン・ローランが急成長する仏ケリンググループ、そしてLVMHは高級ブランドの欧州3強と呼ばれる。今回LVMHがティファニーを傘下に収めることにより、その売上高はほか2社の約3倍となる。
3.買収への伏線?
2011年にイタリアを代表するジュエラー、ブルガリがLVMHに買収された際のCEO、フランチェスコ・トラーパニ氏は創業一族であり15年以上もその地位にあった。LVMHの時計・宝飾部門のトップを務めた後は投資会社に転身した。
現在、2017年からティファニーのCEOを務めているアレッサンドロ・ボリオーロ氏は、1996年から2012年までトラーパニ氏と共にブルガリの経営に携わっていた。そして、ティファニー取締役会のメンバーにトラーパニ氏の名前もあった。今回の買収は法に則った合意であり、規制当局や株主の承認などの手続きにも支障は起きないであろうが、トラーパニ氏がティファニーの経営陣に名を連ねていたのは、ただの偶然なのだろうか。
4.まとめ
今回の買収合意は、日本でいえば真珠のMIKIMOTO(ミキモト)が仏企業に買収されるようなものである。グローバル化が進む今日、海外企業による日本企業の買収も驚かれなくなった。上場会社でも株主の半数以上が外国人・外国企業というケースも珍しくない。国内市場が確実に収縮するなか、従来の延長線上では想定できない課題にも備える必要がある。
(文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学院講師)