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戸田奈津子は誤訳の女王&20点レベル?最高の職人芸?ありえない誤訳も…

文=牛嶋健/A4studio
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「大御所ゆえの賛否両論」と「業界の体質」

–戸田氏の翻訳に批判の声が寄せられることが多いことについて、どう思われますか?

前田有一氏(以下、前田) 戸田さんの字幕翻訳は意訳が多いのが特徴で、それが作品としてよかったり悪かったりと振れ幅が大きいのです。ですから、どんな作品も直訳にする翻訳家と比較すると賛否両論になりやすいのだと思います。

 大御所ゆえに、熱狂的なファンを持つ『ロード・オブ・ザ・リング』(日本ヘラルド映画/松竹)などの名作を翻訳される機会が多く、そこで誤訳をしてしまったことで強烈なアンチができてしまったという側面はあるでしょう。

 また2000年代以降はインターネットが発達したことで、些細なミスも全部掘り返されて過剰にピックアップされているという印象も受けます。気の毒なところはあります。

–辛口で知られる前田さんとしては意外なコメントです。

前田 まず前提として、戸田さんは字幕翻訳家として80年代の洋画黄金期の翻訳を一手に担っていた多大な功績のある方であることは間違いありません。80年代の字幕は必ず最後に「戸田奈津子」と出ており、「この人じゃないとダメ」という空気すらありました。

 その空気が今でも残っているため、配給会社からのオファーが続いているのでしょう。彼女も、来るものは全部引き受けるような姿勢で、得意ではないSFやファンタジー、ミリタリーといった分野の翻訳で、ついにほころびがバレる時代になってしまったという感じでしょう。

『ロード・オブ・ザ・リング』で誤訳騒ぎが起こった後からは、配給会社も原作の翻訳者のチェックを入れて、キャラ名も原作と統一を図ったり、戦争映画ならば軍事評論家の監修が入るようになりました。それまでは本当に字幕翻訳者に任せっきりということがほとんどでした。特に戸田さんほどの大御所であれば、それも顕著だったのでしょう。戸田さんの誤訳騒動以降、字幕の世界が見直されて映画の配給元も少しは気にするようになったワケです。

 ほかの字幕翻訳者からは、戸田さんの誤訳騒動以降「より慎重に翻訳するようになった」という声も上がっていますし、戦争映画の『ブラックホーク・ダウン』(東宝東和)を翻訳された松浦美奈さんなど、直訳系の翻訳者の評価が上がっていることも事実です。

 映画業界は「話題になればいい」と思って、洋画の原題からかけ離れたタイトルをつけるのが当たり前でしたし、とにかく「興行収入が上がればいい」と思っているようないい加減な業界でしたから(苦笑)。

–映画業界のいい加減な体質も、戸田さんの誤訳騒動を広げた要因だといえるのでしょうか。

前田 先ほども申し上げた通り、SFや戦争映画など、相性の悪いジャンルがあることは間違いありません。また、そういうところで知らないなら知らないなりにきちんと辞書を引いたり確認すればよいのに、流れで翻訳している点は見過ごせません。お年なので面倒くさがっているのか、あり得ないような間違いの意訳も過去にありました。

 また、テレビでの同時通訳で、「brown rice」を「玄米」と訳すべきところ、「茶色いお米」と訳すなど、単なる語彙不足といった部分も感じられます。

 しかし、やはり『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ターミネーター2』などの映画をあれだけ日本人が楽しめたのは戸田さんのおかげというのも事実でしょう。

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