小泉構造改革の時代には宮内氏が議長である規制改革会議で委員を務めた人材総合プロデュース会社、ザ・アールの奥谷禮子社長がスポットライトを浴びた。安倍政権では、秋山咲恵氏が新しい産業の創出を提言する起業家として脚光を浴びることは間違いなさそうだが、これまで書いてきたように業績はかなり厳しい。
安倍首相は小泉首相を模倣して諮問会議と競争力会議を立ち上げたが、似て非なるところがある。
00年代前半、小泉首相は経済財政諮問会議に権限を集中して郵政民営化などを次々と進めた。仕切ったのは経済財政担当相だった竹中平蔵・慶應大学教授。竹中氏の諮問会議と、宮内義彦・オリックス会長が議長を務めた規制改革・民間開放推進会議が両輪となり小泉構造改革を声高にぶち上げ、議長の小泉首相が裁定を下す、首相官邸主導の政治を演出した。
小泉首相の諮問会議は命令系統が一本化されており、メンバーも規制改革派を揃えた。まさに抵抗勢力、反対勢力をぶち壊す作戦本部だった。
安倍政権の経済政策「アベノミクス」の司令塔は、諮問会議と再生本部の2本立て。しかもメンバーの考えはバラバラ。閣僚人事や再生本部のプランは「大きな政府」そのものだが、竹中平蔵氏は「小さな政府」の信奉者だ。2本立ての組織と意思統一されていないメンバーで、安倍首相は何をやろうとしているのだろうか。その方向性が、はっきり見えてこない。
●期待される業種と会社はどこか
13年の注目業種は何か。中国経済の減速懸念が尾を引く中、景気変動に左右されにくい事業基盤を持ち、アジアをはじめとする海外で収益を伸ばす企業群に関心が集まるだろう。
代表格が味の素(伊藤雅俊社長)だ。13年3月期の連結最終利益を従来予想の440億円から470億円に上方修正し、8期ぶりに過去最高益を更新する。主力のうま味調味料は東南アジアで高いシェアとブランド力を誇る。17年3月期に連結営業利益の75%を海外で稼ぐという高い目標を掲げ、アフリカ市場にも積極的に進出する。
仏食品大手、ダノンは、ヤクルト本社(堀澄也会長兼最高経営責任者=CEO)の買収に意欲的だ。既にヤクルト株式の20%を保有しているダノンは、出資比率を35%程度に引き上げることを求めている。しかし、ヤクルトは経営の自主独立を主張して、交渉は難航している。交渉が決裂すれば、ダノンが敵対的TOB(株式公開買い付け)を実施するとの観測が強まる。堀会長は「防衛に自信がある」と述べるが、一触即発の緊迫した状況が続く。ヤクルトも注目企業だ。
伊藤忠商事(岡藤正広社長)は12年9月、米食品大手のドール・フード・カンパニーから世界の缶詰・果汁飲料事業とパイナップルなどアジアでの青果物生産・販売事業を買収する契約を締結した。買収金額は1330億円。ドールの世界的なブランド力をテコに、アジアを中心とした新興国市場を開拓する。14年3月期にはドール効果で年間80億円の利益の上乗せを見込む。世界一の繊維商社、伊藤忠は、食品との両輪経営を進める。
成長のキーワードはアジアと食品である。
(文=編集部)