メディアで取り上げられることは多いが、ビジネスとしての実態はまだまだ不透明な「eスポーツ」業界。そんななか、大手ゲームメーカーのコナミが“プロゲーマーを養成する”とうたう専門学校「esports 銀座 school」を2020年4月にオープンする。
このような“ゲーマー養成学校”はどれだけ有用なのか、また成功の見込みはどうか。ゲーム事情に詳しいコラムニストのジャンクハンター吉田氏に聞いた。
最新鋭の機器を装備、学費110万円
コンシューマ(据え置き型のゲーム機)市場では、海外スタジオに押され、日本のゲームメーカーの存在感が年々薄くなってきているという。ワールドワイドなゲームソフトをつくれる日本メーカーが少なくなっているものの、トップクラスの規模を誇るコナミがグループの新拠点「コナミクリエイティブセンター銀座」をオープンする。ここは最先端の配信設備を備えた「esports 銀座 studio」を中心にイベント会場やストアなどで構成され、eスポーツの複合施設となる見通しだ。
そして、同所の目玉企画のひとつがesports 銀座 schoolだ。eスポーツにかかわる人材育成を目的とし、eスポーツの発展を目指すという「学校」で、コンセプトは「セルフプロデュース」「eスポーツビジネス」「コミュニケーション」の3つ。全日制の1年間コースや、社会人でも通いやすい短期集中型の夜コースも存在する。全日制コースは2020年3月10日まで受付が行われ(定員80人に達した時点で受付終了)、書類選考や面接を経て入校が決められるという。ちなみに、学費は110万円だ。
案内パンフレットには、スクールが最新鋭の機器を備えた快適な空間として設計されていることがアピールされ、創造力を刺激するカラフルな講義ルーム、長時間のプレイでも集中できるモノクロを基調とした実技ルームなどの施設案内が並ぶ。また、ハイスペックなゲーミングPCを備え、プレイヤーの実力を最大限引き出すことを可能にさせる、とうたっている。
eスポーツの発展を目指すコナミにとって、継続的なプロジェクトの核となるのが、このスクールのようだ。
成功すれば他メーカーもスクール事業に参入か
「ゲーマー」の養成学校というのは新たな潮流だが、かつてゲーム業界には、ゲームデザイナーやCGクリエイター、声優などの専門学校がつくられるブームがあり、そのほとんどがすでに消えているという流れがある。安易に手を出すと大コケの恐れもあるスクール事業だが、コナミの運営能力や展望について、吉田氏はこう語る。
「コナミはもともと『KCEスクール』というデジタルコンテンツのスクールを運営していたため、スクールビジネスのノウハウはあります。実際、当時スクールに通っていた人に聞くと『コナミの“中の人”が来てくれて、教え方もうまかった』と評判は上々です」(吉田氏)
ノウハウやスキルに関しては申し分なさそうだ。さらに、吉田氏は他社に先駆けたコナミの取り組みを称賛する。
「『ウイニングイレブン』などの自社IP(知的財産)を活用して世界的に活躍するプロゲーマーをスクールから輩出できれば、会社にとってもeスポーツにとってもいい。これが成功すれば、格闘ゲームでeスポーツを盛り上げていきたいカプコンなどもスクールをやらざるを得なくなるでしょう。逆にいえば、コナミは他社に先駆けてeスポーツ選手を養成するムーブメントを起こそうとしているように見えます」(同)
一方で、日本では発展途上のeスポーツにおいて、スクールビジネスには不安要素もあるという。
「eスポーツの大会に出るには資格は不要で、実力さえあればプロとして活躍できます。これはスクールや専門学校のすべてに言えますが、『入学しただけ』ではなんにもならず、プロになれるかどうかは本人次第。『コナミの学校に行ってる』という優越感を得るためだけに通うなら、意味がない。運営側も、プロとして役立つ実学を提供できなければ、過去のスクール同様に衰退していくでしょう」(同)
日本のeスポーツ業界が一枚岩になれない理由
eスポーツのプロ選手は平均年齢が25歳とも言われ、選手生命が短いとされている。このようなプロゲーマー事情について、吉田氏はこう指摘する。
「スクールを出たからといって長くできるわけではないし、知識があっても業界関係者としての需要があるかはまだわかりません。プロゲーマーの『ときど』さんは、実力はもちろん『東大卒』というブランドがあるので、一線を退いても仕事はいくらでもありそうですが、一般的なプロゲーマーは引退後に業界に残れるかは疑問です」(同)
日本ではまだ、プロゲーマーやeスポーツが社会的に認知されているとはいいがたい。こうしたスクールの開設がゲーマーの地位向上などに一役買うという効果もありそうだが、実は最大の障害は日本eスポーツ連合(JeSU)だという。
「eスポーツ利権に食い込もうとさまざまなゲーム関係者が群がっている集団が、JeSUの実態です。彼らが独自で選定したプロライセンス制度に批判的な選手も多く、そもそも日本のeスポーツ業界が一枚岩になれていない。eスポーツの体制を再考していく過程で、コナミのスクールなども相乗効果で業界の発展に寄与できればいいのですが……」(同)
今年の「東京ゲームショウ」で行われたeスポーツ大会において、優勝者がJeSUのプロライセンスの関係で正規の賞金を受け取れなかったことは、ゲームファンの記憶に新しい。こうした現状がeスポーツの発展を妨げている側面は否めない。
さまざまな障害を乗り越えて、コナミのスクールはeスポーツ業界に一石を投じることができるのだろうか。
(文=沼澤典史/清談社)