OECD(経済協力開発機構)が世界79の国と地域の15歳60万人を対象に科学、数学、読解力を測定した「PISA」と呼ばれる国際学力調査の結果が発表され、大きな話題となった。日本は科学5位、数学6位とトップレベルながら、読解力が15位と前回より順位を7つ下げてしまったことに関心が集まった。ちなみに、2000年の調査において、日本は科学2位、数学1位、読解力8位という結果であった。
日本人の読解力が低下した要因に関しては、ゲーム時間の増加などによる学習時間の減少、SNSの普及によるコミュニケーションの短文化、読解力を養う学校教育の問題などが指摘されている。
今回の国際学力調査のトップ3に注目すると、3つの部門とも1位が中国主要都市・省(北京・上海・江蘇・浙江)、2位はシンガポール、3位はマカオと、中国および中華系の健闘が目立っている。
また、アジア勢が上位を占めるなか、ヨーロッパの小国ではあるものの、ICT(情報通信技術)の活用度の高いことで知られるエストニアは科学4位、数学8位、読解力5位と健闘している。
日本ではあまり報道されていない「世界人材ランキング35位」という現状
国際学力調査の読解力で15位になってしまったことが大きな話題になる一方、世界的に著名なスイスのビジネススクール「IMD」が11月に発表した、世界63の国と地域を対象に行った「世界人材ランキング」において、日本が35位になったことはあまり報道されていない。昨年の29位から6つ順位を下げる結果となった。
もちろん、世の中には無数の調査やランキングがあり、この結果をもって、ただちになんらかのアクションを起こす必要はないものの、こうした情報を頭に入れておいて損はないだろう。
評価項目に注目すると、「人材への投資と開発」「海外や国内の人材を魅了する力」「人材を供給する力」という3点になっている。日本はそれぞれ30位、26位、49位となっている。
「人材への投資と開発」には教育投資のGDPに占める割合、教員と生徒の比率、「海外や国内の人材を魅了する力」には給与、生活の質、モチベーション、「人材を供給する力」には管理職の国際経験、理系の卒業生の割合、大学教育、言語スキル、そして先に述べた国際学力調査PISAなどが含まれている。
これらの小項目のうち、日本の管理職の国際経験は63位(最下位)、言語スキルは62位という散々な結果となっている。
ちなみに、総合ランキング1位はスイスで、以下、デンマーク、スウェーデン、オーストリア、ルクセンブルク、ノルウェー、アイスランド、フィンランド、オランダと欧州の国々が並び、10位はアジアのシンガポールとなっている。
日本とフィリピン
筆者が暮らすフィリピンの世界人材ランキングは49位と低迷しているが、その主たる要因は「人材への投資と開発」の低さ(61位)にあり、「人材を供給する力」は26位と健闘している。たとえば、大学教育は35位と、日本の51位を大きく上回る結果となっている。
実際に大学の現場に立つ者としては、それぞれの国において一長一短があり、どちらが優れているかを判断することは極めて難しいが、アメリカのカリキュラムをベースに英語による教育を行うフィリピンの大学のほうが、国際基準で捉えると高い評価になるということだろう。
近年、日本においては、日本独自の強みなどを見直す傾向が高まってきているように思われる。“おもてなし”や“クールジャパン”などは、その代表例といえる。もちろん、自らの国や文化に誇りを持つことは重要だが、日本にとってあまり好ましくない国際的な調査やランキングに真摯に向き合うことで、今後の日本が注力すべき課題を見つけることができるのかもしれない。
(文=大﨑孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer)
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