「フィリピンで英語を学ぶ!」と聞いて、みなさんはどのように思われるだろうか。フィリピンといえば、昔なら悪いことをした人が逃げていく国といったイメージがあったかもしれない。しかし、今やセブやパラワンやボラカイなどを中心に、綺麗な海やビーチが広がる人気のリゾート地として世界中から注目されている。
特に日本からは飛行機で4時間程度、LCC(格安航空会社)を利用すれば時期によっては往復1万円程度という低価格も手伝い、人気の観光地に変貌しつつある。さらに、フィリピン語に加え、英語も公用語として広く普及しており、韓国において人気の語学留学先となったことを機に、日本からの留学生も増えてきている。
また近年、フィリピンは日本企業にとっても人気の進出先となっている。その理由として、経済の状況が良く、人件費が安い、人口も増加しているといったことに加え、国民の英語力、ホスピタリティ精神の高さがしばしば挙げられる。進出後の撤退率は極めて低く、成功確率の高い国としても有名である。
フィリピンの英語学校:StepForward(ステップフォワード)
筆者は先日、フィリピンにおけるメトロマニラ(マニラ首都圏)のBGC(ボニファシオ・グローバルシティ)に所在する日本資本の英語学校である「StepForward:ステップフォワード」を訪ねる機会があり、創業経営者である嶋村卓亮氏に話を伺った。
ステップフォワードは筑波大学で教育を学んだ同級生2人によって2018年に設立された。嶋村氏は大学卒業後、文部科学省もしくはベネッセコーポレーションに就職するかで悩んだというほど、もともと教育に対して強い思いをもっていた。その後、ベネッセに入社し、英語教材やオンライン英語サービスの新規開発に携わった。
しかし、効率よく高得点を獲得できるといった教育よりも、自らが高い関心を持って主体的に学べる場をつくり上げたいという思いが高まる。そうした頃、オンラインによるフィリピン人講師の講義を楽しそうに受講している高校生の姿を見て、フィリピンにおける英語学校の設立を決意する。単なる高得点を目的とした英語教育ではなく、海外への留学、外国人講師との触れあいなどにより、学生の多面的視野、主体性、自己肯定感などを高めていくことが重要であると考えたわけである。このような思いは、ステップフォワードという社名や企業理念に反映されている。
ステップフォワードは、こうした嶋村氏の思いと、共同経営者である松原祥太郎氏が強い関心を抱いていた“教育・スポーツ事業”を具現化するために設立されている。
フィリピン、メトロマニラ、BGCという立地
英語学校を海外に設立する場合、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアなど、数多くの候補地が考えられるが、なぜフィリピンにしたのだろうか。また、フィリピンのなかでもセブは人気の留学先となっているが、なぜマニラ地区のBGCとしたのだろうか。
この点に関して、まず講師の魅力というポイントが挙げられた。フィリピン人は自らが勉強して英語を習得しているため、初学者の気持ちがわかり、教える技術が高い。また、フィリピン人特有のホスピタリティの高さによって、受講者が楽しく英語を学ぶことができる。
フィリピンのなかでもセブではなくメトロマニラとした理由に関して、まずセブにはすでに多くの英語学校が濫立しており、講師の取り合いという状況になっている。一方、メトロマニラには30校程度しかなく、しかもフィリピンの有名大学はこの地区に集中しているため、質の高い講師を集めやすい状況にある。加えて、セブは「遊びながら英語も勉強できる」といったイメージが定着しつつあり、「しっかりと英語を学ぶ、貴重な海外経験を過ごす場」としては、政府の機関や大手企業が所在するメトロマニラのほうがよいとの考えもあったようだ。
さらに、BGCとしたのには、日本からの留学生に学習以外のストレスなく、日々を過ごしてもらうためとのことであった。BGCは近年、急速に開発された地区であり、大きな緑の広場に高層ビルが建ち並び、シンガポールのような街並みである。ハワイ、セブよりも安全性が高いという統計もあるようで、確かに筆者が暮らすマニラ中心部の街とは大違いである。
ステップフォワードの特長
まだ開校1年程度ながら、四半期ごとに25%の割合で受講生が増加するなど、順調にビジネスが進行している。どの業界においても同様のことながら、組織を維持していくために他社との競争に打ち勝つことは必須であり、差別化は重要なポイントとなる。では、ステップフォワードが運営する英語学校には、どのような特長があるのだろうか。
この点に関しては、まず今までの話とも関連するが、講師というポイントが挙げられる。豊富な人材のなかから、経験豊かで優秀な講師を厳選している。採用率は5%という驚きの低い数字となっている。では、なぜここまで厳選できるのか。裏を返せば、なぜそれほど多くの応募があるのだろうか。
まず、報酬を他校の1.2~1.3倍程度としていることがある。豊かな日本と比較して、報酬額はフィリピンにおいて極めて重要度が高い。また、最先端の街BGCで働けるということは、フィリピン人にとっては一種のステータスとなる。こうした優秀な講師を週5日のフルタイムで採用している。
次に、質の高いレッスン内容が挙げられた。ステップフォワードは、フィリピンでは珍しくチームリーダー制を採用している。こうしたシステムのもと、資格試験やビジネス英語など、各分野における専門性の高いリーダーによる講師のトレーニングが毎日実施されている。このほか、オーダーメイドのカリキュラム、フルタイムの留学生には朝と夜に発音キャンプというプログラムが提供されており、留学生からの満足度も非常に高くなっている。
このような高品質な教育サービスを、安全で快適な街BGCで提供していることが、ステップフォワードの大きな特長といえるだろう。
今後の取り組み
BGCというフィリピン一等地のテナント料は、東京の一等地と比較して7割程度と決して安くはない。また、人件費もフィリピンの他校と比較すれば割高となっている。結果、多くのフィリピンの学校が受講料の安さを強調するなか、ステップフォワードは中価格で質の高い英語教育という方針で成功している。中価格といっても、マンツーマンの講義(個人レッスン)が、欧米や日本でのグループレッスンよりも格段に安い価格で受講できることは、多くの日本人にとっては魅力的だろう。
今後は日本にも英語学校を開校し、質の高いフィリピン人講師による講義、さらには留学前の準備や留学後のフォローなどのサービスを提供する予定となっている。また、そうしたフィリピン人講師たちを日本の学校に派遣することで、日本の教育に貢献していくことも見据えている。日本で働くことを希望するフィリピン人講師は多いようであり、こうしたことを条件にBGC校においてさらに質の高い講師を採用できるのかもしれない。さらに、フィリピンでの学校拡大、人材事業、スポーツ事業も準備を進めている。
・もちろん、ひとつの英語学校にとっては大仕事となるが、「英語を学ぶのは、やはり本場のアメリカやイギリスでないとダメ?」「フィリピンの治安は大丈夫?」といった固定観念をいかに打破するかが、今後の飛躍的な成長へのカギとなるのではないか。
・そのために、他校との連携、フィリピン政府や観光にかかわる官庁などとの連携が重要になるかもしれない。
インタビューを終え、個人的に感じたことは、以上の2点である。
(文=大﨑孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer)
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