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盟友テスラからも見放され…パナソニック、世界最高技術の車載用電池、事実上譲渡の窮状

文=編集部
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パナソニックの津賀一宏社長(写真:ロイター/アフロ)

 パナソニックトヨタ自動車は2020年4月、車載用電池の共同事業を始める。共同生産会社の出資比率はトヨタが51%、パナソニックが49%。社長にはトヨタのパワートレーンカンパニーの好田博昭氏が就任する。東京と関西の2本社体制で、従業員数は約3500人になる。

 電気自動車(EV)向けの車載電池をパナソニックの加西事業所(兵庫県加西市)や中国・大連工場など4工場で生産する。リチウムイオン電池に比べて容量が大きく、安全性が高い全固体電池など次世代電池の研究・開発も進める。パナソニックを通じて自動車メーカーに販売する。

 パナソニックは車載電池では世界屈指の規模と技術を誇る。津賀一宏社長が、家電から脱皮する一丁目一番地と位置付けていたのが車載電池だが、新会社の出資比率でトヨタが主導権を握る。

「赤字事業の切り離し。テスラ向け以外の車載電池のトヨタへの譲渡」(金融関係者)と受け止められている。パナソニックの成長のエンジンとなるはずだった米EVメーカー、テスラ向けの車載電池事業が軌道に乗らないことが影響している。

テスラと決別か

 津賀氏は12年6月、パナソニックの社長に就任した。プラズマテレビからの撤退で業績を回復させ、車載電池の大規模生産を打ち出し、成長戦略を探った。1兆円の戦略投資枠を新設し、EV大手の米テスラと車載電池の共同生産にカジを切った。この当時は「住宅」と「車」を成長の二大分野と位置付けていた。

 テスラとパナソニックが共同で運営する電池工場「ギガファクトリー」には、20億ドル(約2100億円)の巨額投資をした。だが、ライン立ち上げのための人件費負担に加え、テスラのEV生産が軌道に乗らなかったこともあり、17年1月に工場が稼働して以来、テスラ向け電池事業は通期で赤字が続いてきた。

 19年4月、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はツイッターで「パナソニックのセル供給がモデル3の増産の制約となっている」と投稿をした。パナソニックは「セル」と呼ばれる電池の中核部材をつくり、これを使ってテスラが完成品のバッテリーパックに仕上げる。「セルの生産ペースが遅い」と不満をぶちまけたのだ。テスラは同年5月、蓄電技術の開発を手がける米マクスウェル・テクノロジーズを買収した。マクスウェルは特電技術に長じている。テスラは自社で車載電池を開発、生産する方向に軸足を移した。

 テスラは20年春に壁に取り付ける家庭用蓄電池「パワーウォール」を日本で発売する。日本での価格は1キロワット時換算で7万円強となり、日本勢の平均とされる18万円前後を大きく下回る。テスラは立ち上がったばかりの日本の家庭向け蓄電池市場で先行するパナソニックやシャープを脅かす「黒船」と恐れられている。

 かくしてパナソニックとテスラの蜜月は終わった。パナソニックが19年5月に発表した19~21年度の新中期戦略では、これまでの成長事業に位置付けていた車載を「再挑戦事業」に格下げした。

赤字3兄弟の液晶、半導体、車載電池を整理

 パナソニックは19年11月、液晶パネル事業からの撤退と半導体事業の売却をたて続けに発表した。液晶パネルは10年に生産を始めたが、16年に競争激化を理由にテレビ向けから撤退。その後は医療機器や車載用などに特化して赤字脱却を目指したが、再建を断念した。半導体事業は台湾の新唐科技(ヌヴォトン・テクノロジー)に売却する。半導体子会社パナソニックセミコンダクターソリューションズ(京都府長岡京市)の全株式を20年6月をメドに約270億円で売却する。

 パナソニックは半導体を自社の家電製品に多く組み込み、かつては生産量が世界10位に入っていた。しかし、韓国・台湾企業の低価格攻勢を受け、競争力を失った。19年3月期の売上高は最盛期の5分の1程度の922億円に減少、営業損益は235億円の赤字。20年3月期の黒字化は難しくなっていた。売却額270億円という安さに関して、「店仕舞いのバーゲンセール」(金融関係者)と酷評された。

「AV機器が沈んでいくなか、車載向けなどにカジを切ったが、スピード感が足りなかった」

 半導体事業を担当する北折良常務は11月28日、台湾メーカーへの事業売却を発表した席上、“敗戦の弁”をこう述べた。車載事業の中心はリチウムイオン電池である。ノーベル化学賞を受賞した吉野彰・旭化成名誉フェローが開発したリチウムイオン電池は、日本勢のお家芸だった。だが、近年は中国が最大のEV市場となり、中国政府は車載用電池について国を挙げて育成に乗り出した。中国企業が首位を走っていたパナソニックに追いつき、追い越した。

 パナソニックは21年度までに赤字事業をなくす方針を掲げる。巨額投資の成果が出ない車載事業を「成長の柱」から外す。これが、テラス向け以外の車載事業をトヨタに事実上、譲渡することの意味だ。液晶パネル、半導体、車載電池の“赤字3兄弟”の整理のメドがついた。

ポスト津賀は3人に絞られた

 津賀社長は19年11月22日、アナリスト向け経営説明会を開き、「当面、不採算事業の撤退や売却など赤字事業を撲滅する」と宣言した。リストラで捻出した経営資源を、オフィスの空間設計や工場の省力化など法人向けサービス事業に充てる。しかし、成長戦略として力不足の感は否めない。

 成長の柱に据えたテスラと組んだ車載事業が軌道に乗らず、経営責任を明確にしなければならない。20年4月、津賀氏は社長の椅子から降り、会長兼CEOになるという見方も強い。“ポスト津賀”は誰か。19年4月に昇格した社内カンパニートップの50代の役員が次期社長の有力候補とみられている。

 19年4月新設した中国・北東アジア社のトップは本間哲朗氏。ビデオなどのデジタル家電分野を歩いてきた本間氏は、12年にグループ全体の経営企画担当に抜擢され、以来、“参謀役”として津賀社長を支えてきた。中国・アジア社は津賀社長が「中国市場で勝てなければパナソニックの将来ない」という重点分野で、家電や住宅などの強化が課題だ。中国では、16年ぶりの家電工場の建設も明らかになった。

 家電の社内カンパニー、アプライアンス(AP)社の品田正弘氏、車載事業のオートモーティブ社の楠見雄規氏も“ポスト津賀”の有力候補である。

 液晶、半導体から撤退したパナソニックが、往年の輝きを取り戻すことができるのか。新経営体制の構築が正念場を迎える。

(文=編集部)

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