深刻化する少子高齢化の影響で、人手不足に陥りつつある飲食業界にとって大きなチャンスになるかもしれません。体験型採用アプリ「Baitry(バイトリー)」が今年3月から本格運用を開始するのです。
バイトリーを運営するのは東京のIT企業スポットメイト。昨年10月、株式会社 USEN-NEXT HOLDINGSと資本提携しました。USEN-NEXT GROUPの顧客75万のネットワークを生かして、年明け早々、求人業界に本格参入しました。このバイトリー最大の売りは1日数時間単位でアルバイトを「お試しで体験」できること。
お試し体験で、職場の雰囲気や人間関係、仕事内容を知ることができるので、「自分には合わないかも……」と感じた時はスパッと辞めることができるのです。アプリには、求職者の趣味や嗜好、性格を事前登録することができるので店側にとっても店のスタイルにあった人を雇うことができるというメリットがあります。人材の流動性を加速化することで、ミスマッチを防ぎ、長期雇用につなげることをめざすという話です。
私のように本業があっても、副業がオーケーな人ならいろんな業界を体験できますよね。こんな面白そうなサービス、試してみるしかありません。早速、アプリを使ってマッチングしたのは、
なんと「お寿司屋さん」でした。
隠れ家的寿司店で職人見習いに
筆者は普段、完全に自分で働く時間や会う人を設定できるので、「時給単価20万円以上の仕事をしているか?」と考えて行動しています。
その一方で、6年前まではフリーターだったので飲食店でバイトをしていました。当時、実は本業は儲かってる会社の社長であるにもかかわらず、「自分の力試しのために半年だけバイトをしている」と言ってる人がいました。その人の影響もあり、飲食店のバイトでも時給20万の価値提供ができる自分なのかを試したいなぁとも思っていたのです。
実際にやるとなったら、毎日3食寿司でもいいくらい寿司が好きなので即決しました。
アルバイトにマッチングしたのは東京都目黒区にある寿司店「おにかい」でした。目黒銀座商店街の路地にある看板もないまさに隠れ家的なお店です。上司は職人の望月将さんと坂本和樹さんのお二人でした。早速、憧れの寿司職人の白衣に腕を通してアルバイト開始です。まずは、お通しや突き出しを小鉢に分ける作業から開始。午後5時に団体客のご予約があるということなので、テキパキと作業をすることが求められます。
いざやってみるとなると、緊張してラップを持つ手も震えます。職人のお二人は魚の下ごしらえなど細々とした準備と並行して、同店などを経営するMUGEN(むげん)の内山正宏社長と新しいメニューの開発も行っていました。
バイトをしてあらためて勉強になったのは、箸の置き方、メニューの美しい置き方に至るまで、もっとも美しく見せる工夫があるということです。これまで何度も食べる側として、お寿司屋さんを訪れていたのに、気付きませんでした。細やかな心遣いが溢れていることに驚きました。
午後5時、14人の団体客のお客様がいらっしゃいました。上げ膳、下げ膳で忙しく立ち回ります。「職人のステージ」と呼ばれる板場にはなかなか立てませんでしたが、お店オリジナルの海老天寿司を配膳するために、立たせていただき、感動しました。
午後3時から働き始めて、あっという間に午後7時半。仕事終了です。
バイトリーの利点とは
実体験をもとに、スポットメイトの三澤英知代表取締役、そしてバイトを受け入れているMUGENの内山社長のお二人に話を伺いました。
三澤代表は、次のように語ります。
「我々には、働き手と職場、どちらもハッピーにするというミッションがあります。業界の深刻な人手不足という背景があって、時間で働いたりするのがはやりつつあるなかで、働くということに関して、人の温かみだったり、ひとつのところで働いて、コミュニティーを持つのがこれからの時代、すごく大事になってくると考えています。
既存の求人媒体やスポット求人だと、その立場を実現できないんじゃないかというところで、我々としてはその逆の流れというか、しっかり人と人をつなげることができるようなサービスを目指しています。
我々の提供しているサービスは、現状の機能的部分は『体験してもらう』というところしかありません。今後はインターフェースなどを改善して、『面』で魅力を伝えられるようなものにしたいです。互いのミスマッチを減らしていくために、ちゃんとデータとか科学的な根拠に基づいて、しっかりマッチングの精度を上げ、お店さん、バイトさん、お互いにとって負担のないようなかたちにしたいです」
一方、内山社長は受け入れ側としての悩みなども踏まえて、次のように話していました。
「僕は46歳です。僕らの学生時代は、とりあえずバイトといえば飲食店でした。全体の8割から9割くらいが飲食店のバイトを経験していましたが、なぜか、ほとんどの学生は飲食以外の仕事に就きました。
しかし、社会人になってみると、意外と飲食店のバイトで教わったことが役に立つときも往々にあると思うのです。だから今も店長たちにこう伝えています。
『アルバイトの子たちは残念ながら飲食に進むことは少ないけれど、今教えたりしたことが後々、社会に出てから役に立って、その子が2~3年たったときに、後輩を連れてうちの店に飲みに来てくれるかもしれない。その時に、「俺はこの店長に教わったことを今、お前らに教えているんだよ」と言ってくれたらうれしいじゃないか』と。最近はバイトがどんどん少なくなってきていて、そういうことを伝える機会もなく、最終的に何年かあと、社会人になってからお店に来てくれる機会もどんどん減っています。
そういうなかで、バイトリーで『まずは店の存在を知ってもらう』とか、『体験してもらう』という機会が得られるのは、何よりありがたいことです。
求人広告に20万、30万円かけて一人か二人しか採用できないことを考えれば、一回知ってもらうという機会があるだけでもプラスだと思うんです。確かに体験バイトだと、一回で終わってしまうかもしれないですし、教えてもすぐにドロップアウトしてしまうかもしれないけれど、店もバイトも面と面で接点を持つというのは大事になっていくと思うんです」
筆者は普段、「すごく売れている保険屋の田上さん」として丁寧に接していただけたりもして、調子に乗ってる部分もあるのですが、飲食店のお客様にとってわたしはただのアラサー女性。普通のバイトとして接してもらえるのが、なんだか初心に帰れて心が浄化されました。
また、調子に乗っているなと思った時には、バイトリーを開いて飲食店でバイトするのもありかなと思いました。今後も私の属している保険業界にとらわれず、話題の新サービスや経営者などの動向を体当たりでリポートしていきます。
●田上顕子(たがみ あきこ)