「Uber HP」より
Uber(ウーバー)やLyft(リフト)などシェアリングエコノミーのプラットフォーム企業の株価が、上場時の価格を大きく下回って低迷しています。そのため、出資をしているソフトバンクグループや楽天では巨額の評価損が出ています。なぜ株価が低迷しているのでしょうか。その答えはビジネスモデルにあると考えます。詳しくご説明します。
シェアリングエコノミーとは?
そもそもシェアリングエコノミーのプラットフォームとは、インターネット上でC2C、つまり個人と個人等を仲介することで、「モノ」「場所」「移動手段」「スキル」「金」などを有効活用するための「場」を提供するビジネスモデルです。ウーバーやAirbnb(エアービーアンドビー)、メルカリなどが有名です。近年、シェアリングビジネスと呼ばれる新しいかたちのプラットフォームが急速に拡大し、既存産業を破壊(ディスラプト)しながら新プレーヤーとして台頭しています。
しかしAirbnbは、世界最大の宿泊事業を展開していますが、物理的な意味での部屋は一つも所有していません。ウーバーも世界最大のタクシー事業を行っていますが、原則としてクルマは保有していません。Airbnbは部屋を借りたい人と貸したい人を、ウーバーはクルマに乗りたい人と乗せたい人をマッチングしているのです。
とはいえ、彼らは単純にマッチングを行っているだけでもありません。もしあなたが自宅に空いている部屋があったとしても、それを「赤の他人」に貸したいと思うでしょうか。多くの人は「泥棒だったら怖いから無理」「物を壊されたり盗まれたりするのではないか」「危害を加えられてしまうのではないか」と恐れるかもしれません。
「赤の他人」に貸し出すわけですから、そう感じても不思議ではないでしょう。こうした人の行動を阻害する要因を「フリクション」と呼びます。フリクションとは、摩擦あるいは障壁という意味です。
このフリクションを取り除く仕組みをつくったことで、Airbnbは一気に広がったのです。そこで彼らは貸し手と借り手双方に「信頼」の仕組みを提供しました。具体的には、スマートフォンのアプリで双方のニーズを満たすような最適なマッチングを行うだけでなく、双方向のやり取りを記録し、さらに決済までアプリで完結できるようにしたのです。
これによって、宿泊者以外の人がその情報を見たときも、宿泊先のオーナーのことを知ることができるようになりました。さらには万一、物を壊してしまったなどの被害が出た場合に備えて、最大約1億円の保険もAirbnbは提供しています。
単なるマッチングサービスではない
ウーバーも同じように、フリクションがなくなるための仕組みを提供しています。自分のクルマに他人を乗せてお金を稼げたらいいだろうな、と思う人はたくさんいることでしょう。自家用車を保有しても月々の駐車場代は高いし、実際に自分でクルマに乗る日は限られている。その一方、タクシーを利用している人も、タクシー代は高いし、なかなかすぐにつかまらない、と考えているはず。そこでの双方の悩み、つまりフリクションをウーバーは解決したのです。
私も何度かウーバーを使ってみましたが、とても快適でした。まずスマートフォンの専用アプリをダウンロードし、自分の現在位置を伝え、クルマを呼びます。行き先も事前に入力します。するとスマホのアプリ上の地図に周辺にいるクルマが表示されて、「あと5分で到着します」などと連絡があります。 その時間どおり、目の前に黒塗りのクルマが到着します。
乗車すると、目的地を伝えなくとも走り出します。すでに目的地はスマホで知らせているからです。目的地に着いたらそのまま降ります。支払いはすでにクレジットカードで終了しています。その後、ドライバーの評価をします。たまにあまり道に詳しくない人もいるので、そうした場合は少し厳しめの採点をします。態度が悪い人も同様です。しかしほとんどは素晴らしいドライバーです。それらをすべてスマホのアプリで行います。
こうした流れ一つをとっても、ウーバーが人気になったのは、単にタクシーを呼ぶためのサービスではないから、ということがわかるでしょう。マッチングだけでなく、そこでのドライバーと乗客との間のすべての取引をスマートフォンのアプリで記録し、GPSで位置情報を把握し、さらに決済まで行い、双方の評価を実施することで、双方への「信頼」を提供することに成功したからです。
プラットフォーマーはMatchmaker
いまや遊休不動産などで使用していないものがあれば、なんでもシェアリングサービスの俎上に載せることができます。使っていないモノや使わなくなったモノなどを他人とシェアすることで無駄のない世の中をつくることは、資源の有効活用としても注目を浴び、「所有」から「利用」へと時代の変化にマッチした新しいサービスのため急速に普及が進んでいます。
少し前にはアメリカで自宅のトイレを貸してくれる家を探せる「AirPnP」というサイトが話題になりましたし、日本でも店舗が休みの日に店舗の軒先を借りられる「軒先ドットコム」などが注目されています。使っていない服を貸し借りする「エアークローゼット」など、フリマなどのモノ、民泊などの場所のシェア、カーシェアなどの移動手段のシェア、家事などのスキルのシェア、クラウドファンディングなどの金のシェアなどがありますが、それこそ無限にビジネスアイデアは浮かびます。
あなたの家の中にも、使っていないゴルフバッグや服などがたくさんあるのではないでしょうか? それらもご近所さんとシェアすれば、立派なシェアリングエコノミーといえます。昔はご近所さんから醤油を借りたり、黒電話を借りたりすることは普通にありました。まだ日本が貧しく、みんなで助け合う“古き良き時代”だったのかもしれません。
仲介を行うプラットフォーマーはMatchmaker(マッチメイカー)として取引が成立したら手数料を得たり、参加者から参加料を得る、あるいはその組み合わせなどによって収益を上げるビジネスモデルです。
では、なぜシェアリングエコノミーのプラットフォームビジネスは儲からないのでしょうか?
なぜシェアリングビジネスは儲からないのか?
そうした将来性のあるビジネスモデルであるシェアリングプラットフォームですが、ウーバーやリフトが上場を果たしたものの、株価がIPO時の株価から大幅に下落しています。それは収益性に疑問が生じているからです。その要因のひとつが過当競争です。
ライドシェアを例にとれば、ビジネスモデルとしては非常にシンプルで、乗りたい人と乗せて稼ぎたい人をマッチングするアプリを作成すれば、誰でも始めることができます。ビジネスモデルが非常に真似されやすいのです。さらに拙著では強調しているとおり、本当に儲かるのは、「フロント」と「バックエンド」のバックエンドビジネスのほうなのですが、それがないケースがほとんどだからです。実際ウーバーやリフトは熾烈な価格競争をしているため、赤字という状況に陥っています。
世界でも続々とライバルが登場しています。昨年、韓国最大メディアである朝鮮日報主催の「Future Finance Forum 2019」から小生が招待を受け、基調講演をしたのですが、そのときにスピーカーとして来ていたのがシンガポールのGrab(グラブ)の経営陣でした。彼らは「ライドシェアよりも決済などのフィンテックを強化している」と言っていました。ほかにも中国の滴滴(Didi)、米国のJuno(ジュノ)、インドのOla(オラ)などが続々と登場しています。
フードデリバリーも急激に伸びています。車を運転していると、ウーバーイーツの自転車がとても危険な運転をしていて冷や汗をかくこともあります。先日は歩いているウーバーイーツのおじさんも見かけましたが、最近は配達料金が急速に下がっているようでますます拡大が予想されます。
このウーバーイーツにも、競合が続々と出てきています。日本では老舗の出前館がCMを強化しています。海外では米シカゴのグラブハブは、競争激化や株価低迷から身売りを検討中であるとか、ジャスト・イートと合併するのではないかという報道も出ました。ほかにも、 ドアダッシュやポストメイトなど続々と競合が出てきています。
このように過当競争になってきているため、米国のジュノは2019年11月に経営破綻し、ポストメイトは人員整理で業務を縮小中です。シンガポールのGrabもIPOを延期したようです。
こうした過当競争の背景には、ビジネスモデルが単純で、参入障壁が低いので消耗戦になっていることがありますが、それを後押ししてきたのがベンチャーキャピタルなどのファンドや大手IT企業でしょう。
日本ではソフトバンクと楽天が代表例です。すでに報道されているとおり、楽天はリフトに11%出資していますが、284億円の評価損を計上しています。ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)は10兆円ファンドとして有名ですが、13%を出資したウィーワークの企業価値は出資当時は470億ドルでしたが、現在はその6分の1の約80億ドルまで下がっているといわれています。
このような投資家のネガティブな状況は、実はこの過当競争を是正する可能性があるとの声も出ています。つまり資金が続かなくなってきていて、むしろ勝ち組は価格の値上げを始めているとの報道も出始めています。実際リフトは値上げを始めているようですが、株価にはあまり反映されていません。一筋の光明でしょうか。
今後の対策
では、シェアリングプラットフォームにかかわる企業は、今後どうすれば良いのでしょうか?
あくまでも私見ですが、ひとつはファンドなどの投資家が慎重なバリューエーション、つまり企業価値評価を行うことでしょう。あまりにも過大評価していた空気は是正されつつありますが、世界的なカネ余り現象が続いており、しばらくすると同じことが起きてくる可能性もあります。
そしてもうひとつは、ビジネスモデルを進化させることでしょう。つまりバックエンドビジネスをつくることだと思います。プラットフォーム戦略(R)におけるビジネスモデルで重要なことは、集客とマネタイズを同時に達成することです。そのためにはフロントエンドとバックエンドの2つのビジネスを構築することが重要です。コンサルティングの現場でもよく「プラットフォームは儲からない」というご相談を受けるのですが、多くの場合それはフロントだけでバックエンドモデルがない場合なのです。
たとえば、楽天は楽天市場というフロントのプラットフォームを有していますが、実は儲かっているのは楽天カードなどの金融事業です。つまりバックエンドが金融なのです。マイクロソフトもWindowsOSというフロントのプラットフォームを有していますが、儲かっているのはMicrosoft Officeなどです。アマゾンもECのプラットフォームを有していますが、儲かっているのはクラウドサービスのAWSです。
今後は過当競争が解消されていくかどうか、そしてバックエンドビジネス、すなわちオリジナル商品や自社固有の利益率の高いサービスの構築力こそが問われている時代になってくるでしょう。
(文=平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長)