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HISの某ツアーが最悪だった…バンにぎゅうぎゅう詰め、ガイドが客に「席譲り合え」

文=深笛義也/ライター
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ラスベガス

 ラスベガスのど真ん中にあるホテル、ベラージオ。午前6時で人はまばらだが、だだっ広いカジノフロアは煌々としている。そこを通り抜け地下に行くと、なんの飾り気もない駐車場。名前を呼ばれて目を向けると、停まっていたのはこじんまりとしたバンだった。昨年11月のことである。

 向かう先はグランドキャニオン。HIS(株式会社エイチ・アイ・エス)で申し込んだ1泊2日のツアーで、料金は1人5万5000円。筆者と連れ合いが乗り込むと、すでに4人の参加者が乗っていた。会釈して乗り込む。バンは、運転席、助手席を除くと12席。そこに乗ったのが6人。走り出したバンは別のホテルに寄り、2人を乗せる。参加者は皆2人組で、それが客席の4列すべてに収まった。快適な旅が期待できた。

 バンは、また別のホテルに停まる。「え? まだ乗るのか」と訝ったが、男女がやってきた。車内を覗き込んだ女性は「どこに座ったらいいんでしょうか?」と訪ねた。「空いている席で、どこでもお好きなところにどうぞ」とガイドが言ったが、2人が並んで座れる席はない。男性は他の2人組の隣に座り、女性はドア近くの1人席に座った。風景を眺めながら語り合うこともできず、旅の楽しさは存分には味わえないだろう。直前になって無理を承知で申し込んできた客なのだろうか、とその時は思った。

 ラスベガスは半袖で過ごせる、真夏の気候。グランドキャニオンは高いところで海抜2000メートル以上あり、真冬の気候だ。防寒着一式を持って行かなければならず、1泊とはいえそれなりの大きさの荷物になる。バンには荷物置き場もなく皆、膝の上に乗せている。セリグマンやセドナに寄り、グランドキャニオン近くのホテルに着いた時には、日が暮れていた。中庭に小さな温泉がある小洒落たホテルだ。翌日の集合時間などの説明を終えたガイドは、言った。

「本日、最後に乗車されたお2人が、離ればなれの席になってしまいました。明日の出発の前に、他のグループの皆さんで話し合いするなりジャンケンするなどして、席を譲っていただけますか」

 あの2人は、無理を承知で参加したわけではなかったのだ。そうだとしたら、参加者を詰め込みすぎたことが問題なのではないか。しかしそんなことをこの場で言い立てても、旅の雰囲気が台なしになるだけだ。そこが、購入前に手に取って確かめられる他の商品と違い、参加してみなければ質がわからないツアーという商品の困ったところだ。他の参加者も同じようなことを考えているのか。押し黙ったままだ。大の大人が、席のことで言い争ったりジャンケンするなどみっともない、と筆者は思った。連れ合いも同じ考えだった。翌朝、ホテルのロビーに参加者が集まり、行程の説明をすると、ガイドは言った。

「昨日お話した席の件ですが、話し合いかジャンケンで決めてきただけますか?」

「うちらは、隣同士の席でなくてかまいません」

 筆者がそう申し出ると、席の問題は決着した。

何度も土産物屋に寄る

 グランドキャニオンで見る朝日、先住民ナバホ族に案内されるアンテロープ・キャニオンは素晴らしいものだった。だが実際に座ってみてわかったことだが、バンのドア近くの席は、それより後ろの席の人が出入りする度に、自分も立ち荷物もどかして通してあげなければならなかった。こうした譲り合いは大切なことかもしれないが、仲間で金を出し合ってレンタカーを走らせているわけではない。5万5000円という、決して安くない料金を払っているのだ。

 車は何度も土産物屋に寄った。店主から「マスター」などと呼びかけられて、ガイドは慕われている。客を連れてきてくれる、ありがたい存在なのだろう。ガイド自ら割引券を配った店もあった。これ以上、荷物を増やさせてどうするというのだろう。

 若い頃、筆者は営業記者として小さな広告会社に勤めていた。契約を取った広告の文章を自分で書く仕事である。その頃に成長途上であったHISの広告も扱った。担当者は世界中をバックパーカーとして巡ってきた、猛者。旅への思いに溢れていて、いつも打ち合わせは盛り上がった。

 30年前のその頃は、旅行代理店がパスポートの取得まで代行し、現地では添乗員に案内されての手取り足取りの団体旅行が海外では当たり前だった。パスポートを取るという体験から旅は始まっているのであり、現地では自分でできることは自分でする、そうした体験が旅の醍醐味なのだ、と担当者は熱く語っていた。HISは決して、安かろう悪かろうの旅を提供する会社ではないはずだ。ましてや、今回のツアーは安いものではない。これでは高かろう悪かろうという、本来の日本語にはない最悪の状況だ。

腑に落ちないHISの回答

 今回の件は何かの手違いだったのだろうか。ツアーの申し込みをしたHISの担当者に、会社としての見解を聞かせてほしいと申し出たところ、以下の回答があった。

「現地催行会社へ状況の確認をさせて頂きました。下記ご確認をお願いできますでしょうか。今回ツアーに使用したのは12人乗りのバンで、他のツアーも同様一番使用率が高いものになるようです。深笛様にご参加頂いた日は満席での催行のため、ドライバー、助手席を抜いて10席全て利用するかたちとなっておりました。お席に余裕を持って1人1人のスペースをゆったりと座席確保ができる事がベストではございますが、催行会社の運営としては1台の車両に乗せる人数を減らしてのツアー催行はコストの問題が絡み、またツアー代金に影響が出る問題となる為難しいというのが現状との事でした。深笛様が仰っていたとおり、ガイドは会社の指示通りツアーを催行し、その中でお客様皆様にある程度平等にできればと思いお席の交換をお願いした様ですが、ガイドのせいではないにしろ微妙な空気になってしまっている中一言謝罪をしていれば深笛様もお気持ちが違ったのではないかと思います。以上の回答を受け、催行会社へは配慮が足りなかった点に関して申し入れさせて頂きました。また、弊社として催行会社との今後の契約についても再度改めて検討させて頂く次第です。この度はご旅行ご参加にあたりましてご迷惑をお掛け致しました事、改めてお詫び申し上げます」(※本名で記されていた筆者の名をペンネームに変更)

 実際には、14人乗りのバンに運転手、ガイド含めて12人が乗ったのだが、残りの2席は使い勝手の悪い席であり、席数には入れていないのかもしれない。

  謝罪の言葉はあるが、コストの面での弁解がされている。しかし改めてツアーの案内をHISのホームページで見てみると、最少催行人数は2名となっている。2名分の料金を払えば1人でも参加できると但し書きがあり、参加者2名で採算が成り立つことは明らかだ。

「2名で成立するのですから、私が経験した事態に関して、コストの面から正当化する説明には無理があります。旅の快適さを犠牲にしてまで過度に利益を追求している、と受け取るのが自然です」

 HISの担当者にそう質したが、回答はなかった。コスト面での説明は、取り繕いようのない虚偽ということか。HISはいまだにこのツアーを扱っている。HISは巨大化して、創業当時の志を失ってしまったのではないだろうか。

(文=深笛義也/ライター)

深笛義也/ライター

深笛義也/ライター

1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。10代後半から20代後半まで、現地に居住するなどして、成田空港反対闘争を支援。30代からライターになる。ノンフィクションも多数執筆している。

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