買収で海外売上高比率を20%に引き上げる
アサヒGHDの15年12月期連結決算の売上高は前期比4.0%増の1兆8574億円、純利益は10.6%増の764億円と15期連続で過去最高を更新した。
国内のビール類(ビール、発泡酒、第3のビール)の販売数量は1.4%減ったが、ウイスキーやワインが伸びた。特にウイスキーは29.4%も増えており、“マッサン効果”が大きい。
14年9月から15年3月まで放送されたNHK朝の連続テレビ小説『マッサン』は、“日本のウイスキーの父”と呼ばれるニッカウヰスキー(現アサヒビール子会社)を創業した竹鶴政孝とその妻リタがモデルで、2人のウイスキーにかける情熱が大きな反響が呼んだ。その効果でウイスキーの販売数量が大幅に増えたのである。
国内酒類事業の営業利益は1195億円で、アサヒGHD全体の88.4%を占める。売り上げの主軸「スーパードライ」に依存した一本足打法となっている。
課題は海外だ。海外事業の売上高は2519億円で全体の13.5%、営業利益は155億円で11.4%にとどまる。欧州ビール会社4社の買収で、海外売上高比率を20%まで引き上げる計画だ。
海外の大型買収で明暗を分けたサントリーとキリン
アサヒGHDの海外大型M&Aは、先行しているキリンHDとサントリーHDのどちらの足跡を辿ることになるのだろうか。15年12月期連結決算は海外M&Aが明暗を分けた。サントリーHDはM&A効果で過去最高の売上高を記録したが、キリンHDはM&Aの失敗で赤字に沈んだ。
サントリーHDは14年に1兆6000億円を投じて米蒸留酒大手ビーム(現ビームサントリー)を買収し、ウイスキーなどの蒸留酒事業で世界第3位に浮上した。15年12月期の売上高は前期比9.4%増の2兆6867億円、純利益は17.9%増の452億円だった。
ビームサントリーは北米・中南米の販売が好調で売り上げが23%伸びた。海外事業の売上高は16.1%増。全売上高に占める海外比率は38.4%に高まった。
これに対してキリンHDは11年に3000億円を投じてブラジル第2位のビール会社、スキンカリオール(現ブラジルキリン)を買収。15年12月期の売上高は0.1%増の2兆1969億円、純損益は473億円の赤字だった。価格競争に敗れたブラジルキリンの業績が悪化。1100億円の減損損失を計上したため最終赤字に転落。売上高に占める海外比率は14年の31.5%から28.4%に低下した。
アサヒGHDは、どちらのケースが想定されるのか。キーワードは、のれん・商標権だ。サントリーHDは買収額が巨額に上るため、のれん・商標権の償却負担が大きい。純利益はのれん償却前の1034億円から452億円に6割近く減った。キリンHDはブラジルのM&Aの失敗で多額な減損処理に追い込まれた。
アサヒGHDの成否は、のれん・商標権の償却負担をはるかに上回る利益を出せるかどうかにかかっている。利益が出なければキリンHDの二の舞となる。
国内ビール市場は縮小に歯止めがかからない状況にあり、M&Aを柱とした海外事業に活路を求める小路社長は腕の見せどころだ。
(文=編集部)