粉飾決算で意気消沈していた東芝社長の室町正志氏だが、元気を取り戻しつつある。売却交渉を進めている医療機器子会社、東芝メディカルシステムズの売却価格が競争激化で高騰し、7000億円の買い値がつきそうなのだ。
一次入札を終えた段階で「4000億円規模」と報じられたが、2月4日の決算会見で室町氏は「価格を下げて早期に売却しようとは考えていない。売却額は報道された額より高い」と強気の発言をした。それでは医療機器子会社の価格はいくらになるのか。
東芝は2月4日、16年3月期の連結最終損益(米国会計基準)が7100億円の赤字(前期は378億円の赤字)になる見通しだと発表した。従来予想から1600億円下方修正したかたちだ。家電や半導体事業でリストラ費用が増え、電力・社会インフラ部門で採算が悪化したことが響いた。
その結果、2016年3月期の自己資本は1500億円まで減少する見込みだ。自己資本比率は安全といわれる30%を大きく割り込み、15年12月末時点で8%にまで落ち込んだが、さらに2.6%まで急降下する。債務超過転落の瀬戸際に追い込まれたわけだ。
債務超過を回避するため、東芝メディカルの売却を決断した。16年3月末までに売却先を決定。売却益で急速に悪化した財務体質の改善を図る。
CTのシェア世界3位の虎の子
日本の医療機関で使用されている医療機器の多くは、海外からの輸入に頼っている。しかし、数は多くないが日本製で世界に通用する製品もある。オリンパスの消化器内視鏡、シスメックスの自動血球計数装置、テルモのカテーテルなどがそうだ。
東芝の100%子会社で 医療用の画像診断装置の開発を行う東芝メディカルは、CT(コンピューター断層撮影)装置のシェアが米GE(ゼネラル・エレクトリック)、独シーメンスに次ぐ世界3位だ。国内でのCTシェアは60%、エコー(超音波画像診断装置)のシェア35%で、ともにトップだ。
東芝は5つの事業部門に分かれている。各部門の15年4~12月期決算の営業利益を見てみると、原子力発電・鉄道などの電力・社会インフラは1026億円の赤字、昇降機・業務用空調などのコミュニティ・ソリューションも635億円の赤字、家電などライフスタイル部門は668億円の赤字。一方、半導体などの電子デバイスは234億円の黒字だが黒字額は急速に縮小している。医療機器などのヘルスケア部門は68億円の黒字で堅調だ。
黒字のヘルスケア部門の中核をなすのが東芝メディカルだ。主力の医療用の画像診断装置は世界的にはまだ成長が期待されている。本来なら売却することなどあり得ない選択だが、背に腹は代えられない。優良企業だからこそ高値で売却できるメリットがある。売却益で財務内容を改善して債務超過を回避するための緊急避難措置なのである。