売却候補の選定
政府は医療機器分野への新規参入を後押しし、20年頃までに国内の医療機器市場を14年(2.9兆円)比で1割増の3.2兆円に拡大させる目標を掲げている。成長が見込める医療機器市場に、自動車部品や化学、繊維など異業種からの新規参入が相次いだ。今回の国内最大級のM&A(合併・買収)に内外の大手企業が参戦したのは当然の成り行きである。
買収先候補には、日立製作所、富士フイルムホールディングス(HD)、ソニー、キヤノン、コニタミノルタ、三井物産、米GE、韓国サムスン、米投資ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)、英投資ファンドのペルミラなどの名前が挙がった。
最初に手を挙げたキヤノンは決算会見の席上、「医療機器事業を大きくする千載一遇のチャンス」と買収に強い意欲を示した。レントゲンの撮影装置を手掛ける同社は、医療機器事業を成長分野と位置付けている。
他社も同様だ。東芝メディカルを買収できれば国内の画像診断装置で圧倒的なシェアを確保できる。宝の山の買収を巡って水面下でさまざまな情報が飛び交った。
「東芝はライバルの日立やソニーには売りたくないだろう」ともいわれた。日立やソニーは応札を検討していたが最終的に見送った。
1月に実施した1次入札で候補は2社と2つの企業連合に絞られた。キヤノン、富士フイルムHD、コニカミノルタとペルミラの連合、三井物産とKKRの連合である。
7000億円に達するとの見通しも
気になるのは、東芝メディカルの売却額がいくらになるのかという点だ。
東芝メディカルの15年3月期の売上高は2799億円、営業利益は177億円、純利益は158億円。M&Aでは、「EBITDA(償却前利益)の何倍か」という指標がよく使われる。通常は5~10倍が相場で、医療関連でも15倍がリミット。これ以上だと、高値買いをしたといわれる。
東芝メディカルは詳細な財務諸表を公開していないため、アナリストたちは「プレミアム分を勘案して2000~4000億円程度になる」と、大雑把な数字を出していた。1次入札が終わった段階で「4000億円程度か」と報道されたのは、このような予測に基づいたものだろう。
ところが、室町氏は決算記者会見で「報道された額より高い」と見通しを述べた。他社の動きをにらみながら、是非とも手に入れたいと考えている“本気組”が応募価格を引き上げたものと推測できる。
3月4日に締め切った2次入札で7000億円超の高額の札を入れた企業がある。これは東芝メディカルの純利益の44年分に相当する。第2次入札に富士フイルムHD、キヤノン、コニカミノルタ・ペルミラの3陣営が応札し、三井物産・KKR連合は応札を見送った。コニカミノルタは採算性を厳密にはじき、1月末の第1次入札時より低い金額を提示したとの情報もある。この結果、キヤノンと富士フイルムHDによる一騎打ちの様相となった。
東芝メディカル争奪戦は一段と過熱してきた。
(文=編集部)