室町正志・東芝社長の2016年年頭挨拶は、「小さく強靭な本社を目指す」だった。社内カンパニー制に移行し、本社はグループ全体の戦略を決定するなどの機能に絞り込み、スリム化を図る。
昨年、不正会計で2248億円の利益の水増しが明らかになり、大規模リストラを断行した。16年3月期の純損益は過去最大の5500億円の赤字になる見通し。V字回復を実現するためには、各事業で売り上げや利益をしっかり確保するのはもちろんのことだが、キャッシュフローを重視し、財務基盤の整備に努めなければならない。
「新生・東芝」に向けて歩みだした同社は、新年早々から悪いニュースを受けた。不正会計不祥事について同社が損害賠償請求訴訟を起こさなかったことを理由に、個人株主が3月末までに室町氏ら役員に対し株主代表訴訟を起こすことが判明したのだ。報道によれば、請求額は総額80億円前後になる見通しで、室町氏のほか、不正会計がなされた当時の副社長や執行役上席常務も含まれるという。
この個人株主は昨年9月、現旧役員28人に総額10億円の損害賠償を求める訴訟を起こすよう東芝に要求。同社は昨年11月、西田厚聰氏、佐々木則夫氏、田中久雄氏の歴代3社長と、最高財務責任者(CFO)だった村岡富美雄氏と久保誠氏に計3億円の損害賠償を求める訴訟を起こした。このとき、室町氏らは訴訟対象外とされた。
歴代3社長への損害賠償訴訟と金融庁への課徴金納付により、現経営陣は不正会計問題の幕引きを図るつもりだったが、目算が狂った。
大リストラ
「新生・東芝として再生するには、痛みを伴うリストラをこのタイミングで断行することが必要だと判断した。来年度(17年3月期)からのV字回復が最大の責務だ」
15年12月21日に記者会見した室町氏は、徹底したリストラを断行する考えを強調した。不祥事の温床となった家電事業に大ナタを振るうことを決断。テレビ、パソコン、白物家電のライフスタイル部門は収益力の衰えが顕著だ。
パソコン事業は16年4月に分社化し、富士通、ソニーから分社したVAIOとの事業統合を進める腹づもりだ。テレビ事業は自社生産をやめ、他社の工場に委託した高価格帯のテレビ販売だけに特化する。15年3月期の世界販売台数535万台を17年3月期には国内のみの60万台と9分の1に減らす。
冷蔵庫や洗濯機の白物家電もシャープの白物家電事業と統合し、新会社に政府系ファンド、産業革新機構が出資する案が浮上している。産業革新機構は東芝の救済に動いている。