新型コロナ、潮目変わる、名目GDP2.9兆円下押しの可能性…東日本大震災を上回る悪影響か
国内で感染が拡大する新型肺炎
新型肺炎の感染が日本国内でも広がり、さらなる感染の拡大に警戒が強まっている。今後は全国的にウィルスが広まる恐れも出てきた。従って、新型肺炎の流行がさらに広がれば、これまでのインバウンドやサプライチェーンへの影響に加え、感染を避けるために外出やイベントを控える動きが広がること等を通じて日本経済にも大きな悪影響が及ぶと考えられる。
そこで本稿では、過去に自粛の動きが広がった2011年の東日本大震災後の事例をもとに、新型肺炎感染拡大に伴う自粛が深刻化した場合の我が国経済への悪影響を試算する。具体的には、自粛等を通じた個人消費やサービス輸出入の減少を通じた名目GDPへの影響を検討する。
東日本大震災後並みの自粛で家計消費を▲2.3兆円以上下押し
最も懸念されるのは、前回の東日本大震災後のように、人々が経済活動を自粛することで、個人消費にとって大きな打撃になることが予想される。東日本大震災後の外出やイベントの停止が相次いだ2011年前半のように、新型肺炎の影響で国内での自粛の動きが深刻化することになれば、個人消費が大幅に落ち込む可能性がある。
そこで以下では、自粛の深刻化によって名目GDPがどれだけ下押しされるかを、近年において自粛の動きが最も深刻化した2011年における家計消費の落ち込み幅を前提として試算した。
GDPを構成する名目家計消費(除く帰属家賃)についてみると、東日本大震災後の自粛の動きが最も深刻化した2011年前半には、自粛がなかったと仮定して線形補完した場合と比べて、2四半期で▲2.2兆円下押しされた計算になる。
従って、足元の名目家計支出(除く帰属家賃)が東日本大震災前に比べて+4.8%程度拡大していることを勘案すれば、今回、東日本大震災後並みの自粛となった場合の名目家計消費は2四半期で▲2.3兆円以上減少することになる。
なお、こうした自粛の悪影響を受ける可能性がある分野としては、宿泊や運輸、小売、レジャー、外食、旅行、イベント関連等が想定される。一方、宅配や通販、テイクアウト、テレビ、ゲームなどの巣ごもりや、テレワーク、通信などの在宅勤務関連消費には特需が発生する可能性がある。
インバウンド減で日本のサービス輸出は▲1.0兆円減
一方、インバウンドへの影響も、国内で感染拡大が広がれば、SARS(重症急性呼吸器症候群)よりも影響が拡大し、東日本大震災並みの影響が及ぶ可能性もある。
そこで以下では、中国人以外のインバウンドも減少することによって、GDPがどれだけ押し下げられるかを、東日本大震災後におけるサービス輸出の落ち込みを前提として試算した。具体的には、東日本大震災に最もサービス輸出が落ち込んだ2011年4-6~10-12月期にサービス輸出がトレンド(前後のデータの線形補間)からどの程度乖離したかを調べ、その乖離率と同程度サービス輸出が押し下げられると仮定した。
推計結果によると、東日本大震災後のサービス輸出は3四半期で▲0.5兆円以上程度押し下げられたことになる。しかし、当時に比べてサービス輸出はインバウンドの増加等により1.9倍になっている。このため、こうしたインバウンドの増加などを勘案したうえで、今回も同程度の影響が出現すると仮定すると、インバウンドの減少等により▲1.0兆円程度サービス輸出が下押しされることになる。
感染拡大の食い止めが最善の経済対策
一方、日本居住者の海外旅行の需要が減少すれば、旅行支払いの減少を通じてサービス輸入の減少につながる。そこで、この影響についても同様に試算すると、東日本大震災後の悪影響が最も大きく現れた2011 年4-6~10-12月期には、サービス輸入が東日本大震災後の影響がなかった場合と比較して、▲0.3兆円程度下押しされた計算になる。ただ、足元のサービス輸入が東日本大震災前に比べて1.5倍程度の水準まで上がっていることからすれば、東日本大震災後並みの影響が出た場合はサービス輸入が▲0.5兆円程度減少することになる。
結局、先に試算した家計消費への影響にサービス輸出入の影響を含めれば、自粛等の動きが深刻化した東日本大震災後と同程度の影響を前提とすれば、名目GDPが東日本大震災後の▲2.5兆円を上回り、▲2.9兆円程度下押しされることになる。
ただし、この試算は、あくまで今年の前半中に国内での自粛の動きが落ち着き、海外における日本の風評も秋までに落ち着くといった前提である。したがって、東日本大震災後と比較して自粛等が長期化すれば、その場合には想定以上の悪影響が及ぶリスクもあることには注意が必要となろう。
このため、政府は感染拡大を一刻も早く食い止めることに全力を尽くすとともに、潤沢な資金供給によって、この間の企業倒産などを最小限に食い止めることが最優先といえよう。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)