「ペコちゃん」でおなじみの不二家で、大量閉店が続いている。2019年末時点の洋菓子の店舗数は829店で1年前から33店減った。15年末(986店)からは157店も減っている。
不二家は1910年11月、創業者の藤井林右衛門が横浜に洋菓子店を開いたのが始まりだ。翌12月にはクリスマスケーキを発売。22年にショートケーキの販売を始めている。クリスマスケーキやショートケーキは今ももちろん販売しており、不二家の主力商品だ。なお、ペコちゃんが誕生したのは50年となる。
不二家は現在、洋菓子店などを展開する洋菓子事業と、クッキー菓子「カントリーマアム」など菓子類を製造・販売する製菓事業の2つを軸に事業展開している。直近本決算の2019年12月期連結決算は、売上高が前期比1.8%減の1033億円、営業利益が23.9%減の18億円、純利益が11.9%減の12億円だった。
製菓事業は好調だが、洋菓子事業が足を引っ張っている。製菓事業は売上高が0.4%増の703億円、セグメント利益が5.6%減の62億円だった。増収の一方で減益だったが、それでも十分な利益を稼ぎ出している。一方、洋菓子事業は売上高が8.0%減の301億円、セグメント損益が16億円の赤字(前期は14億円の赤字)だった。減収は5期連続、セグメント損失は03年3月期から17期連続となる。
洋菓子事業の業績が厳しいのは、競争激化で多くの洋菓子店が販売不振に陥り、不採算店の閉鎖を余儀なくされたためだ。
不二家の洋菓子はクリスマスや誕生日といった「ハレの日」需要や、中元・歳暮といった従来型の慣習的なギフト需要を取り込むことで成長してきた。だが、そういった需要は年々減ってきている。
そうしたなかで、洋菓子も販売するコンビニエンスストアが台頭した。コンビニは店舗数が大きく増えたほか、おいしい洋菓子を手ごろな価格で提供するようになった。近年の洋菓子は「日常使い」や「プチ贅沢」としての需要が高まっており、コンビニが受け皿になっている。コンビニで数々のヒット商品も生まれている。たとえばローソンが昨年3月から販売している「バスチー バスク風チーズケーキ」は累計3200万個を販売したほどだ。不二家はこうしたコンビニの洋菓子に押されている。
もっとも、不二家はコンビニにも洋菓子を供給しており、完全な敵対関係にあるわけではない。一定程度、共存関係にある。たとえば、カスタードをスポンジ生地で包んだ「ペコパフ(カスタード)」などを供給したりしている。だが、コンビニでの扱いは極めて限定的だ。コンビニへの商品供給で得られるメリットよりも、コンビニに店舗の客を取られるデメリットのほうが圧倒的に大きいのが現状だ。こうしてコンビニに押され、不二家の洋菓子店は苦戦するようになった。
山崎製パンとの協業や新業態で事態の打開図る
そうしたなか、不採算店の閉鎖を進めたほか、コンビニやスーパー向け洋菓子販売を強化し、採算性改善を図っている。
そこで重要なカギとなるのが、親会社で製パン最大手の山崎製パンだ。不二家は07年に消費期限切れの原料を使用していた問題が発覚し、工場の操業停止や洋菓子店の休業を余儀なくされるなど、窮地に追い込まれた。そこで山崎製パンの支援を仰ぐことになった。これをきっかけに08年には同社の連結子会社になっている。
不二家は山崎製パンが導入している食品衛生管理システムを導入するなど、支援を受けてきた。販売面でも、山崎製パンが持つコンビニやスーパーへの販路を活用してきた。
両社はコラボ商品も生み出している。不二家の菓子「ミルキー」を山崎製パンの菓子パン「ランチパック」にアレンジして山崎製パンが売り出している。最近では2月から、カントリーマアムやミルキーをアレンジした菓子パンの販売を始めている。こうすることで不二家ブランドの露出が増えるため、不二家の商品力向上が期待できる。
不二家はこうした山崎製パンとの協業で事態を打開したい考えだ。一方で独自の施策ももちろん、試みている。新業態の展開がそうだ。
昨年3月、百貨店の日本橋三越本店(東京都中央区)に新業態の「西洋菓子 不二家」を期間限定で開いた。「過去から現在そして未来の不二家へ」をコンセプトに、不二家で長年愛されてきたショートケーキとミルキーを現代風にアレンジして提供。同年9月にはJR京都駅ビルに入る百貨店のジェイアール京都伊勢丹に2号店をオープンした。
昨年7月には鳥取県の協力のもと、鳥取和牛など鳥取の食材を扱った新業態の鉄板焼き店「鳥取和牛 大山」を大阪市に開いている。18年2月には宮崎牛などを扱った鉄板焼き店「銀座不二家みやちく」を東京都渋谷区にオープンした。
不二家は洋菓子事業で洋菓子の店舗運営のほかに「不二家レストラン」などのレストランの運営もしており、こちらのてこ入れも急務となっている。
19年12月期の洋菓子事業の売上高は301億円だったが、洋菓子が242億円で8割を占め、レストランが58億円で2割を占める。レストランは、洋菓子ほど規模は大きくないが、もちろん無視はできない存在だ。だが、レストランも苦戦が続いており、不採算店の閉鎖を進めるなどで売上高は19年12月期まで6期連続で減少している。てこ入れが不可欠だ。
洋菓子事業は厳しい状況が続いているが、救いとなっているのは製菓事業が好調なことだ。先述した通り、19年12月期の製菓事業は増収で、セグメント利益は減益だったものの十分な額を確保している。長期的に見ても、収益は上昇傾向にある。このように製菓事業が貢献しているので、07年の消費期限切れの原料を使用していた問題がひと段落ついた10年3月期以降で不二家の連結最終損益が赤字だったのは、14年12月期の1期だけだ。
製菓事業では健康志向を背景に「健康」と「グルメ」という切り口で製品開発を行い、需要の取り込みに成功している。ナッツの健康的なイメージを訴求した「アーモンドチョコレート」や、糖質を抑えたカントリーマアムなどを販売したりしている。
不二家は不振の洋菓子事業を好調の製菓事業で穴埋めできている。だが、こうした状況が長く続いていいわけではない。洋菓子事業は不採算店の閉鎖を進める一方で、既存店のてこ入れを図り、早急に赤字体質から脱却する必要があるだろう。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)