ひと昔前にはやった「ドッグイヤー」という言葉がある。人間の1年は犬の7年に相当する。5歳の人間は犬なら35歳の青年。10歳の人間は犬でいえば70歳の老齢者、という勘定になる。そういえば我が家で飼っていたシーズー犬は15歳で息を引き取ったが、最後の半年はよぼよぼの老体をさらしていた。
ドッグイヤー、その心は、昔と比べて現在は物事が急激・急速に変化する、ということである。技術が変わり、消費者の好みが変わり、流通が変わる。業界によっては法的規制も変わる。経営を取り巻く現況がビシビシと音を立てて変化するなかでは、企業も変わらなければ生き残ることは覚束なくなる。流れに取り残された敗北者となる。「大変の時代、大変しないと大変だ」という事態を招くことになる。企業には変化、それも「はやい変化」が求められる。
一口に「はやい」とはいうが、実ははやさには2種類のはやさがある。ひとつは英語で言うと「SPEED(スピード)」のはやさであり、もうひとつは「AGILITY(アジリティー)」のはやさである。
スピードとは、なんらかの意思決定がなされたときに、決定したことを実行に移して正しい結果に結び付けるための「速さ」である。対するにアジリティーとは、経営を取り巻く環境に対して我が社も迅速に変わるという「早さ」である。環境変化に対する軽快かつ迅速な変わり身である。
あくまで一般論ということでいえば、総じて日本の企業はスピード(速さ)には強い。特に大企業の場合は、物事を決定するまでには恐ろしく時間がかかるが、一旦決まった事を実行するときのスピードは速さ。仕事の正確度も高い。半面、多くの日本企業が苦手とするのがアジリティー(迅速性)である。変化に対して迅速に自社の戦略を変えるのが不得意である。その結果、ドッグイヤーの流れに乗り損ねてしまう。
「将来の成功を妨げる最大の敵は過去の成功である」という皮肉な表現がある。周囲の環境が変わっているなかで、我が社が過去の成功体験にどっぷり漬かっていると時間の問題、それもあまり長くない時間の問題で企業はルーザー(敗者)となる。
タイミング・イズ・マネー
大方の日本企業の迅速性を妨げている要因には、稟議制度や根回し文化等に加え、事なかれ症候群や完璧主義、完全主義などが挙げられる。