4月1日、大阪にひっそりと「関西電力送配電株式会社(略称:関電送配電)」が設立された。関西電力の100%子会社だ。近畿地方2府4県を中心とする関西エリアに電気を送配電する会社である。関西電力が保有していた送電線や変電所などを引き継ぎ、これからはこの会社が維持・運用する。「関電」が発電し、その電気を「関電送配電」が企業や一般家庭などのユーザーに届ける。
不祥事が続いた関電がなぜ、この時期にこんな会社を設立したのかといえば、電力自由化の「発送電分離」で、以前から決まっていたことである。
一口に“電力”といっても、「発電」「送配電」「小売」という3つの事業で成り立っている。これらの3事業はすべて地域の大手電力会社が独占的に行ってきたが、1995年の電気事業法改正以来、段階的にゆっくりと電力自由化が進められてきた。2016年の小売の全面自由化では、ガス会社など異業種から多くの企業が「新電力」として発電事業に参入し、自然エネルギーの電力会社も全国にたくさん発足した。一般家庭でもどの電力会社から電気を買うかが自由に選べるようになった。
新電力が発電した電気を家庭や企業に届けるには、大手電力が保有する既存の送電網を使わなければならない。ここで大変な問題が起きた。大手電力は新電力に対して送配電網の利用を制限したり、高い託送料金(送電線使用料)を課したりするなど邪魔しに出た。
例えば、福島第一原発の事故で全村避難を余儀なくされた福島県飯館村では、震災復興の1つとして村民自ら立ち上がって「飯館電力」を設立したが、当初予定していた1.5MWのメガソーラーに対して東北電力が送電線への接続を保留した。飯館電力はやむなく50kWの低圧発電所を複数カ所設置する事業計画に切り替えた。
テレビ朝日の『報道ステーション』によれば、山口市では、NPO(非営利団体)が市との連携でメガソーラー事業を始めようとしたところ、中国電力は連携費用として4億5000万円請求してきたという。そこで、山口市が交渉に乗り出し、中国電力に費用の金額根拠を質したところ、その後「70万円」という回答がきたという。その大幅ディスカウントには笑うしかない。4億5000万円は脅かすための言い値だったのだ。
送電線は長年にわたる国民の電気料金によってつくられた公共財産であるにもかかわらず、大手電力が私物化してきた実態が明らかになったのである。
送配電会社はすべて大手電力の傘下で何も変わらず
発送電分離の目的は本来、送配電事業を大手電力から切り離して公平で透明性のある競争環境をつくり出そうというものだ。ところが、4月1日付けで設立された全国の送配電事業8社(東電と沖縄電力以外)はすべて、大手電力の100%子会社であり、とても“分離”と呼べるような状況ではない。ちなみに東電は、2016年に会社分割をして持ち株会社に移行し、送配電事業は「東京電力パワーグリッド」が行っている。
日本では発送電分離に「法的分離」という中途半端な方式を選んだが、欧米の多くでは「所有権分離」という形式を取っている。これは、送配電事業を発電や小売とは資本関係のない完全な別会社とする形式だ。
3月9日付日本経済新聞でシカゴ大学の伊藤公一朗准教授は「法的分離では公平な送配電線利用は困難」と明確に法的分離を否定している。環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長も次のように指摘する。
「法的分離で独立性が保てないというのは、3年前に分離してスタートした東電を見れば明らか。新電力が顧客をどんどん獲得するなか、送電線を保有している東電パワーグリッドは、どの新電力がどこの顧客をいつ奪っていったのかピンポイントでわかる。その情報が小売事業の東電エナジーパートナーに筒抜けになっていて、その情報を元に巻き返しの営業ができる。情報の遮断ができていない。新電力はお金をかけてマーケティングしながら営業しており、公正な競争にはならない」
さらに深刻な問題はクロス・サブシディ(内部補填)だという。
「例えば、小売り会社が多少損をして電気を安売りしても、送配電会社のほうで儲けることができれば、グループ全体としては黒字になる。託送料金は高ければ高いほど、グループ全体としては有利になる」
2018年、奈良県生駒市の新電力「いこま市民パワー」が生駒市と契約したところ、関電は大和郡山市など周辺自治体での競争入札で標準価格の5割ほどの大幅な割安料金で切り崩しにかかった。これは、仮に小売りで赤字でも、託送料で儲ければ問題なしということであろう。大阪府泉佐野市においても、関電は泉佐野電力に対して同様の露骨な値引き販売攻勢を仕掛けたため、公正な競争力がそがれた。
託送料金に損害賠償や廃炉費用も乗せて新電力に請求
大手電力の傘下にある送配電会社が独占する託送料金がブラックボックス化しているのも問題だ。原発事故の処理費用が託送料金に転嫁されようとしているとして、「グリーン・市民電力」を運営するグリーンコープ共同体は、国と九州電力を相手に訴訟を起こす。経済産業省は原発事故の賠償費用が5.4兆円から7.9兆円に膨らんだため、2016年末に託送料金に上乗せして徴収する方針を決めた。託送料金に上乗せするというのは、原発事故になんら責任のない新電力にも処理費用を肩代わりさせようということだ。
例えば、もしJRが事故を起こしたとき、その復旧費用や損害賠償費用を運賃に上乗せしてユーザーから徴収しようとしたら、そんなことは絶対に許されないだろう。経済産業省と電力会社は恥も外聞もなく、それを平気でやろうとしているのだ。
「電力自由化のロードマップ上、法的分離で終わり。経済産業省の中でも所有権分離の議論はない」(飯田氏)
日本の電力自由化は歪んだ制度設計のまま終わろうとしている。再生可能エネルギーはなかなか増えず、エネルギー分野で日本は世界から取り残されていくのである。
(文=横山渉/ジャーナリスト)