ビジネスジャーナル > 企業ニュース > コロワイド、大戸屋乗っ取り
NEW

コロワイド、大戸屋乗っ取り計画の全貌…大戸屋の全株主へ“食事券配布”作戦

文=松崎隆司/経済ジャーナリスト
【この記事のキーワード】, ,
コロワイド、大戸屋乗っ取り計画の全貌…大戸屋の全株主へ食事券配布作戦の画像1
大戸屋の南池袋店(「Wikipedia」より/Asanagi)

 ステーキ宮、かっぱ寿司など16の外食チェーンを展開するコロワイドが和食外食チェーン、大戸屋の乗っ取りに動きだした。コロワイドは現在、「大戸屋」を展開する大戸屋ホールディングス(HD)株式の約19%を保有する筆頭株主だが、次回の株主総会に向けて取締役会を支配するため経営陣刷新を求める株主提案を送りつけたという。

 今回の株主提案についてコロワイドは14日、以下リリースを発表した。

「本年 3 月 23 日より、大戸屋 HD 株主様へのアンケートにおいて、大戸屋 HD の当社グループ入りに関するご意見を募ることと致しました。その結果、回答数の 9 割を超える株主様(発送総数 24,092 名、うち有効回答数 18,891 名)から賛同を頂きましたことから、大戸屋HD の業績改善に向けた当社へのご期待も大きいと考え、本株主提案を実施することと致しました。

 また、当社は、本株主提案が大戸屋HD の定時株主総会において可決承認された場合には、大戸屋HD の連結子会社化を検討しております。当社と致しましては、本株主提案の可決承認を前提とした大戸屋 HD の連結子会社化を通じて、当社グループが有する事業プラットフォームの活用による大戸屋HD の事業再建を果たすと共に、中期経営計画に掲げた給食事業における協業により、当社企業価値の向上を図ってまいりたいと考えております」

「本株主提案の概要

(1) 提案する議題

 取締役12 名選任の件

(2) 議案の要領

 以下の取締役候補者12 名を一括して、大戸屋HD の取締役に選任すること

 現当社役員の取締役候補者 2名

 現大戸屋HD 役員の取締役候補者 2名

 社外取締役候補者(非業務執行取締役含む) 8名」

 コロワイドは現在、国内飲食業第4位の外食チェーン。その前身は1963年に創業した神奈川県逗子市の甘味処。1977年に炉端焼き居酒屋の「甘太郎」に業態転換。これはコロワイドの原点ということになる。2000年代には業績不振の外食チェーンの買収を展開し、現在は「焼肉牛角」のレインズインターナショナル、「かっぱ寿司」のカッパ・クリエイトなど16の外食チェーンを展開している。

 コロワイドが大戸屋の株を保有したのは2019年10月1日。大戸屋HD創業家から、大戸屋HD株1,351,800株(18.65%)を1株2,219円で取得した。取得総額は約30億円(コロワイド提出の2019年10月7日付け大量保有報告書及び10月11日付け訂正報告書)。

 大戸屋HDでは、創業者の三森久実氏の逝去により、株式を相続したその妻・三森三枝子氏(13.06%)と長男・三森智仁氏(5.60%)が、大戸屋HD経営陣と「お骨事件」と呼ばれる社長の座や功労金をめぐる骨肉の争いを繰り広げた。

「お骨事件」とは、三枝子氏が久実氏の遺骨を抱え、位牌・遺影を持った智仁氏を引き連れ、大戸屋HDのビルの裏口から社長室にいきなり入室した事件。「あなたは社長として不適格。息子に社長をやらせます」と、当時26歳だった智仁氏を社長にするよう迫ったというもので、当時、世間を騒然とさせたことは記憶に新しい。

 その後、2人は同じ飲食業で競合他社であるコロワイドに大戸屋HD株を売却。今回のコロワイドの株主提案の取締役候補には、この智仁氏も含まれるといい、今後の波乱を予感させる。

 コロワイドは、大戸屋HDの株式を取得した後、野尻公平社長が2019年度第2四半期決算の決算説明会の場で、「大戸屋HDに対するM&A(合併・買収)を視野に入れている」ことを明らかにした。

「その後、両社間において数回にわたる接触があったが、業務提携や資本提携の交渉は進んでいない」(大戸屋HD関係者)

株主への「アンケートへのご協力のお願い」

 ところが6月の株主総会を前にコロワイドによる乗っ取りの動きが急展開。2020年3月には野尻社長の名前で、大戸屋HD社の株主に対して「アンケートへのご協力のお願い」と題する書面が送られている。筆者もこのアンケートを入手した。その封筒には、「ご回答いただいた株主様全員に当社お食事券を進呈」と赤い太字で強調。アンケート回答者には、3,000円相当のコロワイドグループで使える食事券を送付するとしている。

 大戸屋HDの直近の株主数は、2019年3月末時点では2万5,555名。アンケートは2019年9月末時点の株主名簿に基づき送られているが、9月末時点の株主を約2万5,000名と仮定した場合、全株主に3,000円の食事券を配ると総額は7,500万円に上る。

「このようなアンケートは、アクティビストなど会社と敵対する株主がプロキシーファイト(委任状争奪戦)を行うときに採られている手法でもある」(企業買収に詳しいコンサルタント)

 その手口はこうだ。

「まず、株主名簿閲覧等請求権に基づき対象会社の株主名簿を入手し、その名簿に記載の各株主の住所にアンケートを送る。そのアンケートの回答とともに電話連絡先など書かせて入手することで、その後のプロキシーファイトの際に個人株主に直接連絡できるようにするという狙いもあるのです」(同)

 実際に、コロワイドが送付したアンケートでは「アンケート上の『株主様のご連絡先』を忘れずご記入ください」「もれなくご記入ください」などと連絡先の記入を繰り返し求めている。

 後日アンケートの謝礼の食事券を送るという名目で連絡先を書かせているが、株主の住所などが書かれた株主名簿をもっているわけだから、改めて連絡先を書く必要はないはず。

「名前・住所以外の情報である電話番号を入手する目的が透けて見える」(同)

 また、アンケートの設問はわずか一点、大戸屋HDのコロワイドグループ入りの賛否だけだ。

「その一つの設問のアンケートに、わざわざ謝礼として3,000円の食事券を配ったり、『現行の株主優待をコロワイド水準に見直す』などと景気のいい話をして、そもそも賛同の返答が送られてくるように仕向けている。実質的にバラマキで個人株主の賛同を買う意図があるのではないでしょうか」(同)

 新型コロナウイルスの感染拡大で苦しむ飲食業界でありながら、コロワイドがこのような強引な手法を使ってでも乗っ取りを進める背景には何があるのか。今後大戸屋HDの経営はどうなっていくのか、注視したい。

(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)

松崎隆司/経済ジャーナリスト

松崎隆司/経済ジャーナリスト

1962年生まれ。中央大学法学部を卒業。経済出版社を退社後、パブリックリレーションのコンサルティング会社を経て、2000年1月、経済ジャーナリストとして独立。企業経営やM&A、雇用問題、事業継承、ビジネスモデルの研究、経済事件などを取材。エコノミスト、プレジデントなどの経済誌や総合雑誌、サンケイビジネスアイ、日刊ゲンダイなどで執筆している。主な著書には「ロッテを創った男 重光武雄論」(ダイヤモンド社)、「堤清二と昭和の大物」(光文社)、「東芝崩壊19万人の巨艦企業を沈めた真犯人」(宝島社)など多数。日本ペンクラブ会員。

コロワイド、大戸屋乗っ取り計画の全貌…大戸屋の全株主へ“食事券配布”作戦のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!