大激戦の2020年度中学入試
上の表を見てほしい。2020年度首都圏中学入試で倍率の高い学校の一例だ。驚くのは、これは「形式倍率」(応募者数/募集定員数)ではない。「実質倍率」(受験者数/合格者数)である点だ。つまり、暁星中学校の第2回入試は「20人受験して、合格者はたったの1名」ということだ。
2020年度の中学入試の特徴のひとつに、首都圏の私立中学校の初回入試が集中する2月1日は、前年比で微増の受験者数の入試が多く、さらに、それらの学校の2回目以降の入試回が実施された2月2日以降の入試は上記の表のような大激戦が繰り広げられるところが多かった。
学校を「選ぶ」時代から、学校から「選ばれる」時代へ
首都圏の中学受験者全体状況を見てみよう。
上の表に目を通すと、2020年度の中学入試の過熱ぶりがわかる。特筆すべきは、2020年度は1都3県の募集定員総数を上回る私立中学受験者数となった。つまり、中学受験は「学校を選ぶ時代」から「学校から選ばれる時代」に突入したということだ。実際に「私立中学校を受験したけれど、どの学校にも合格することができなかった」という落胆する親子の声を、皆さんもちらほら耳にすることがあったのではないか。
中学受験の過熱化の理由
なぜ、2020年度の中学受験はこれだけ活況を呈したのか。その理由をいくつか挙げてみよう。
(1)2020年度、2024年度にそれぞれおこなわれる大学入試改革が依然として不透明であり、公立よりも私立中高一貫校のほうがこの改革に柔軟性をもって対応できるという期待感を抱いたため。
(2)2016年度より実行された文部科学省による「大学合格者数抑制策(定員の厳格化)」により、主として首都圏の私立大学が難化し、この数年は浪人生数が増加している。この事情を耳にした保護者たちがわが子をエスカレーター式に大学に進ませる道(大学入試を回避させる)を見いだそうとしていて、大学付属の私立中高一貫校に目を向けたため。
(3)「中学受験熱」の高い都心部の小学生の数が増加しているため。
(4)いまの小学生の保護者世代は1990年前後の「中学受験ブーム」の頃に小学生である場合が多く、自身も中学受験を経験している可能性が高い。すなわち、わが子の中学受験をすすめるのがごく自然になっていため。
(5)上の(4)と連動するが、いまの保護者世代に中学受験を勧めた祖父母が孫の中学受験に経済的支援をする場合が多く、さらに、「教育資金贈与の非課税」制度もその潮流を後押ししているため。
カジュアル化が進んだ中学受験
そして、(1)~(5)の理由で活性化した中学受験を目にして、わが子が小学校5年生、6年生になってから「いまでも間に合うのなら……」と進学塾の門を叩くご家庭も目立つようになってきた。各大手塾の管理職を務める同業者たちからも「最近は短期間の塾通いで中学入試を目指す親子が目に見えて多くなっている」と異口同音に言う。この傾向は私の感覚的なものではなさそうだ。要は、「どこか合格できる学校があれば……」と良い意味で「肩の力を抜いて」中学受験の道を歩む層が増加しているということだ。私はこれを中学受験の「カジュアル化」と呼んでいる。
冒頭の「高倍率校」にもう一度目を向けてほしい。2020年度は大学付属校のみならず、中堅の進学校が人気を博している。これも中学受験のカジュアル化が生み出した現象だろう。
コロナショックが中学受験地図を激変させる
このままいけば、2021年度の首都圏中学入試もまちがいなく大激戦が繰り広げられるはずだった。しかし、その「受験地図」が急変しそうだ。
そう。新型コロナウイルス感染拡大の影響である。公立私立問わず、学校を休校せざるを得ないいま、私学の多くはその独自性をいかしてICTを用いた遠隔授業を実施したり、生徒たち一人一人にきめ細やかな学習フォローをおこなったりしている。その様子を目にして「この緊急事態の私学の迅速な対応により、さらに中学受験は人気を博すだろう」とSNSで批評している人がいた。しかし、それは短見というものだ。
このたびのコロナショックで次年度の中学入試には逆風が吹き荒れている。それはかなりの暴風であると考えてまちがいないだろう。
なぜか。その理路については次回の記事で細かに触れていきたい。
(文=矢野耕平/中学受験指導スタジオキャンパス代表)