全国の高校の今年の東京大学合格数がおおむね出そろった。伝統的に毎年、一定数の合格者数を出し続けている名門の常連校に加え、ここ3年でめきめきと頭角を現してきた新興勢力の動きも著しい。今年の高校別東大合格者数に関して、大学入試に詳しい評論家の島野清志氏に話を聞いた。
名門私立が上位独占し意外性のない結果
――3月17日現在、筑波大付属駒場高校の合格者数は発表されていません。同校を除いた上で、各高の合格者数は上から順に開成高校が185人、女子高の桜陰高校が85人、灘高校79人、渋谷教育学園幕張高校が74人、麻布高校が63人、聖光学院高校が62人、海城高校が59人、栄光学園高校が57人、西大和学園高校53人、ラ・サール高校41人、東京都立日比谷高校が40人などとなっています。
島野清志氏(以下、島野) 毎年ベスト10に入る名門私立高校が並んでいて、意外性はあまり感じられない結果になったと思います。ここのところ、都立日比谷高校の躍進が注目されていましたが、今年は残念ながらベスト10入りは果たせませんでした。
ただ桜陰は女子高で85人という数字です。東大入試は、従前から圧倒的に男子有利な状況が続いています。開成、麻布、海城、栄光、灘は男子校です。そのなかで、この数字は実数以上の意義があると思います。
生徒数で比較・西大和は今年度がピークか
――急成長という意味では、西大和学園高は一昨年の合格者数約30人から毎年10人ずつ合格者数を伸ばしています。
島野 確かにそうですが、同校の合格者数は本年度がピークではないかと予想しています。同校が所在する奈良県には、古くから東大合格の登竜門と言われている東大寺学園高校(東大合格者数36人)があります。同じ県内に競合する進学校があるので、どうしても優秀な生徒が二分してしまいます。
また東大など難関校への進学を希望する保護者の方々は、人数そのものより、その高校の生徒数に占める東大合格者数の割合を注目する傾向があります。例えば、東大寺学園高は1学年約200人なのに対し、西大和学園高は約380人で2倍です。母数が大きい方が合格者数も増えます。そう考えると、開成も1学年400人弱の生徒数ですが、桜陰や灘は200人前後です。生徒数の倍の開きがある場合は、合格者数も倍にしてみると比較がしやすくなります。
――昨年まで注目されていた都立日比谷高校など公立高校はトップ10に入れませんでした。
島野 躍進はしませんでしたが、都立日比谷高校や都立西高校(東大合格者数20人)、埼玉県立浦和高校(同33人)、茨城県立土浦第一高校(同26人)などのブランドは崩れませんでした。政府の授業料無償化方針で生徒が私立高校に流れることも予想されていたので、善戦したイメージがあります。
新型コロナウイルスによる不景気で来年度以降、再び公立躍進か
――来年度以降、どのよう変動が考えられますか?
島野 新型コロナウイルス感染症の増加に伴う不景気で、再び公立が強くなる可能性があります。私立学校への入学者は景気に左右されます。授業料が無償化されても、私立はそのほかの経費が公立よりかさみます。家計のことを考えれば、各都道府県の公立進学校に進学し、予備校に通わせる選択肢も十分あると思います。また現状でも地方では相変わらずナンバースクール(旧制第一中学校など)が圧倒的な強さを示し、新興の私立高校を圧倒している状況です。
また注目なのは、公立中高一貫校の存在です。今年の東大合格者数では、都立小石川中等教育学校は10人、都立両国高校が5人など一定の合格者を出しています。公立中高一貫校は、中学受験時に開成や麻布などと併願するケースが多く、受験層がバッティングしています。優秀な生徒が入学するケースも多いです。しかも少人数制授業なので、教員の面倒見が良いことでも知られています。難関大学を目指す子どもたちの選択肢の一つになり得ると考えています。
(文・構成=編集部、協力=島野清志/評論家)