東京大学といえば、日本に数多存在する大学のなかで序列トップに君臨し、誰もが認める“日本の最高学府”として、長きにわたり政官財の各界に将来トップとなる人材を多数輩出してきた。それゆえに入学するのは難しく、たとえば医学部に当たる理科3類(編注:「3」の正式表記はローマ数字)に入学するためには、センター試験で5教科7科目を受験し、900点満点中9割を得点しなければならないといわれており、東大独自の論述式の個別学力検査(いわゆる2次試験)では国語、数学、理科2科目、外国語、面接を課され、その入試科目数の多さでも知られる。
そんな東大の個別学力検査の入試問題といえば、さぞ超難問が出題されると思われがちだが、近年、理系学部の数学科目が易しくなっていると指摘されている。いったい、どのくらい易しくなったのか、東大側の狙いはどこにあるのかについて、大手予備校・代々木ゼミナールで「東大理科数学」講座を担当している土田竜馬講師に聞いた。
問題が易しくなった理由
土田竜馬講師(以下、土田) 確かに2000年代から2010年前半に比べると、ここ数年で易しくなっています。特に2017年度の問題はかなり易しかったようです。理3では満点の生徒も続出して、講師の間でも話題となりました。それでも、受験生の実力を見極めるには十分な一定の難易度は保たれています。
ちなみに、2017年度は易し過ぎたため、2018年度はリバウンド現象が起き難化しました。それでも、4半世紀前には120点満点中10点程度でも合格した人がいるという時代から考えると、雲泥の差です。
――なぜ易しくなっているのでしょうか?
土田 東大は2020年までに女子学生比率を3割にするという目標を立てているので、女子学生に有利にするために易しくしたという声が上がっていますが、個人的には、問題を易しくすることで、本当に数学が苦手な人を排除する狙いがあったのではないかと考えています。
――数学の問題が易しくなったことで、今度は他の教科の難易度も下がり、東大の偏差値が下がったり、大学の序列が変わったりする可能性はあるのでしょうか。
土田 数学の一つひとつの問題をみれば、東京工業大学や名古屋大学、大阪大学といった旧帝大の問題や、浜松医科大学のような単科医大の問題のほうが難しいという例は多々あります。しかし、東大が日本の最高峰の大学であることは紛れもない事実であり、数学の難易度が下がろうが、これまでもこれからもその序列が崩れることは考えにくいでしょう。ただし、近年医学部人気が過熱しているために、優秀な学生が医学部に流れていて、親世代と比べると入りやすくなっているのは否めません。