これからは、私立大学の文系学部に入るにも、数学が必須になるのだろうか。
6月7日に早稲田大学が発表した入試改革の衝撃を、一言で表せばそういうことになる。 大学通信常務取締役の安田賢治氏は語る。
「これを学びたいという明確な志望動機があるとは限らなくて、数学ができないから文系学部を選んでいる受験生が多いんですよ。高校での理系と文系の振り分けの際にも、『数学が苦手』『物理が嫌い』などの理由で文系を選んでいる生徒が多いですから」
早稲田大学が発表した内容は、現在の高校1年生が対象となる2021年度入試から、政治経済学部、国際教養学部、スポーツ科学部の一般入試において、大学入試センター試験に代わって2021年1月に実施される大学入学共通テストを全受験生に課すというものだ。これによって「数学1・A」(編注:「1」の正式表記はローマ数字)が必須となる。
現在は政経学部、国際教養学部の一般入試の場合、外国語と国語のほかは、地歴と数学から選択できる。これが私立大学の3教科入試の典型だ。スポーツ科学部の一般入試では現在、外国語と小論文、そして国語と数学のどちらかを選択できる。
「文系と理系の振り分けは、だいたい高校2年で始まります。入試に数学を課すことによって、文系で数学を取らない生徒はしんどくなるわけですね。それで慌てて発表したのではないかと思います。他の学部がどうなるかというのは、まだ発表されていないので、なんとも言えないですね」
今回の早大の入試改革の意図は、どこにあるのだろうか。
「文部科学省が出している、『知識・技能』『思考力・判断力・表現力』『主体性・ 多様性・協働性』という学びの3要素がありますね。これを意識しているのだと思います。これからAI(人工知能)が発達して、答えが1つの問題はAIが答えてくれるようになる。だから、答えが複数あるとか、答えがない問題に取り組めるような教育をしていかなければならないということでしょう。ですから、センター試験はすべてマークシート方式の回答でしたが、大学入学共通テストでは記述式の回答も入ってきます。
大学に入ったら数学は必要となってきますから、数学が苦手なまま入学して苦労するより、最初から一定程度理解しておいたほうがいいので、数学を入試で課すという意味もあると思います。今回の改革によって政経学部の入試では、大学入学共通テストの次に学部独自試験が課されます。これは日本語と英語の長文を読み解いて回答させたり、英語で図表を読み解かせたり、日本語で社会科学的な思考を問うたり、いろいろな科目が融合した問題が出されて、より大学で学ぶ内容に近い出題になるのでしょう」