安倍晋三首相は6日、『ニコニコ生放送』(ドワンゴ)に出演し、新型コロナウイルスの政府対応に関して視聴者からの質問などに答えた。番組では、全世帯に配布する布製マスクについても質問が飛んだ。各メディアやインターネット上で疑問の声が相次いでいる布製マスクの調達先の選定ついて、安倍首相は「疑惑というのは、まったくそんなものありません。(配布で流通するマスクの)価格が下がったという成果もある」と主張した。ネット上のインフルエンサーや有識者からもアベノマスク配布開始時に、同様の主張が同時多発的に上がったが果たして本当なのか。東京都内の路上などでマスクを販売している業者に話を聞いた。
販売業者「アベノマスク関係ない」
新宿区の飲食店の路上では、50枚入り1箱3500円ほどの値段でノンブランドの不織布マスクが売られていた。販売している飲食店店長の男性は次のように話す。
「アベノマスクの配布? 関係ないですよ。うちの親戚に華僑がいて、中国の生産工場とやり取りすることができるようになったんで、直接仕入れて店頭販売しているだけです。緊急事態宣言の影響で本業(飲食店)の売上が確保できなくなったので、新しい商品を売り始めたのにすぎません。価格を下げるもなにも、先月の末ぐらいから始めたので、最初から適正価格で販売しています。4月上旬くらいにはマスク1枚150~200円くらいでネット販売されていたでしょう。あれはぼったくりです。うちの商品がちょっと高いのは大企業のように薄利多売できないからです」
一方、渋谷区でマスクを販売している男性は次のように憤った。
「アベノマスクは布製じゃないですか。あのマスクして街中うろついている人、見たことないんですけど。不織布マスクの需要と関係ないんじゃないですか。配布が始まってからも、毎日50箱は売れていますよ。メルカリとかアマゾンとかで転売していた人たちがその後、どうなったのか知りませんけど、うちはちゃんと社長の知り合いのルートでマスクを仕入れていますよ。マスコミがこういう取材するから、俺らが悪徳業者みたいに見られて迷惑してるんです。少しでも人の役に立つ物を売ろうとしているだけじゃないですか」
マスク1枚当たりの価格は78円→50円に
本当にマスク価格は下がったのか。参考までに、複数のECサイトで販売されているマスク1枚当たりの単価を一覧できる「在庫速報.com」(アスツール)を見てみる。今月7日現在までの約1カ月間の推移では4月24日の平均価格78円を境に、下落が開始。今月2日には60円を割り込み、現在は50円代前半で落ち着いた。確かに、マスク価格は下落している。やはり、政府の布製マスク配布によるものなのか。
「価格下落の最大の要因はシャープの参入」
医療器具メーカー社員は次のように解説する。
「政府の布製マスクの配布がいわゆる不織布マスク市場に与えた影響に関しては、特にデータがないのでわかりません。ただ医療品業界で先月、最大のトピックだったのはシャープが4月21日にマスクを生産し予約販売することでした。日本国内のメーカーはもちろん、中国のマスクメーカーにも衝撃を与える大規模参入だったので、これによる価格変動が一番大きな要因だったのではないでしょうか。その間、アイリスオーヤマなどが大規模生産を開始していたことも下地にあったとは思います。
シャープの予約販売が始まる前に売りぬこうとした業者が一時、ECサイト上で価格を吊り上げたという話を聞きました。コロナ騒動でマスク価格は激しく上下していましたが、日本国内の小売店の多くはシャープの価格を基準に設定しようという流れになってきていると思います」
政府がマスク増産にむけて懸命に旗振りをしていたことは事実だ。だが、生産量や流通量そのものが増えたえたことに関しては、民間の企業努力によるところが大きいのではないか。少なくとも、布製マスク配布とマスク価格の下落の相関はいまだに霧の中だ。
(文=編集部)