活用シーンは多彩
–人生を振り返ってもらう時、「どうしても話したくない」「思い出したくない」という思いに直面することがあると思います。そのような場合はどうするのですか。
後藤 そのような場面では、無理に聴き出そうとはしません。最初に「話したくないことは話さなくていいです」と伝えてから始めます。こちらから根掘り葉掘り聴くことはないのですが、そういう部分こそ潜在的には「聴いてほしい」という願いがあるようで、人生を振り返るうちに自ら話し出すケースが多いです。そして、そのような話をしてくれたときには、きちんと受け止めてあげられるように意識をしています。
–そこに後藤さんのコーチングの経験が生かされてきますね。
後藤 そうですね。その人の感情や大事にしている思いをどのように受け止めるかということは、コーチングで「傾聴」と呼ばれる技術として実践してきているので、私の得意分野といえます。特にそのように大事にしている部分に丁寧に耳を傾けることで、話し手は「聴いてもらえた」という実感が湧くのです。
–聴き書きは何人で活動されているのですか。
後藤 3人です。聴き手の私と、書き手、本のつくり手というかたちで分担しています。大量生産するようなものでもなく、一つひとつの依頼を丁寧に進めています。商業出版ではなく、作品としてつくり上げるという感じです。製本も手作業で仕上げますし、私たちは「工芸作品」と呼んでいます。まさにお客様の「作品」として形にする作業をお手伝いする、という思いで仕事をさせていただいています。
–自分史のように「自分のことを記した本をつくりたい」という方よりも、両親などへのプレゼントとして利用される方が多いのでしょうか。
後藤 確かにプレゼントとしての利用される方が多いですね。お父様の定年退職、ご両親の銀婚式・金婚式といった機会のプレゼントに向いていると思います。
–聴き書きのお勧めポイントを教えてください。
後藤 まず、自分の話をじっくり聴いてもらえることは貴重です。今の時代、情報を発信することは簡単ですが、面と向かって話を聴いてもらうことは多くないのではないでしょうか。また、聴き手の聴き方によって話す内容は大きく変わってきます。聴き手のプロが、話し手のストーリーを引き出していくところに特長があります。これは我々にしかできないことだと自負しています。
さらに、家族についても語られる場になります。普段言えない感謝の言葉や、面と向かって言えなかった思いが、第三者を介することで伝えられるようになります。書物として残るので、今は小さいお孫さんが成長された時に読まれれば、この上ない人生の参考書になると思います。
–聴き書きを利用されるのは年配の方が多いのでしょうか。若者が利用するケースとしては、どのようなシーンがありますか。
後藤 60~80代の方が多いですが、30~40代の方が人生を一度立ち止まって振り返り、今後どのように生きていくかを考える時として活用されるケースがあります。たとえば、仕事で独立する際に、自分が今までに成し遂げてきたことを見直し、自分の強みがどこにあるかを確認するために利用された方がいます。
私の姉が出産する1週間ほど前にインタビューし、母親になる直前の気持ちや出産への不安、子供を育てることへの思いなどを本にまとめました。実際に子育てが始まると、忙しさに追われて忘れてしまうかもしれない思いを残しておきたかったのです。半生を振り返るような大きなものではなく、短編の聴き書きです。
–出産前だけでなく、子供が小さい頃の日常を忘れないために定期的に短編の聴き書きをして残しておくのもいいかもしれませんね。
後藤 そうですね。子供の誕生日や結婚記念日など、定期的にその時々の気持ちを残しておくという使い方もお勧めです。ちょっとした節目に、過去を振り返ってみるというのは、未来に向かう上でも有用な時となります。
–単に自分史をつくるというのではなく、活用できる場面は多彩ですね。一人ひとりに合わせて、ボリュームや料金を調整してもらうこともできるのでしょうか。
後藤 その方に合わせてカスタマイズすることが可能ですので、お気軽にご相談いただきたいと思います。
–ありがとうございました。
(構成=編集部)
●後藤岳(ごとうたけし) 「聴き書きブックス」代表&聴き手
Hospitality & Coaching代表
プロコーチ、CTIジャパン(国際コーチ連盟所属コーチ養成機関)コーストレーナー
前職のホテルコンシェルジュ、現在のコーチング、聴き書きブックスと、「聴くこと」で人とつながることを仕事にしてきました。その人の想いや感情を聴いて、その人らしさを一緒に見つけ出すことが自分の役割とし、活動をしています。