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入社倍率100倍も…地獄不況の出版業界、なぜ採用試験で超高倍率?業界の“特殊事情”

文・取材=福永全体/A4studio
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「Getty Images」より

 近年の就活市場で人気が高いのは、商社・旅行会社・メーカーなどである。一方、かつて就職人気ランキングで上位に名を連ねていたマスコミ関係企業の人気は低迷しているともいわれている。

 だが、マスコミのなかでも斜陽産業といわれることも珍しくない出版業界には、まだ新卒採用が高倍率の企業が多いのが実情だ。例えば大手出版社には、採用定員の100倍以上の数の学生たちから応募が殺到するという。そこで今回は、『「欠点」を「強み」に変える就活力』(サンマーク出版)の著者でマスコミ就職塾「ペンの森」で講師を務める岩田一平氏に話を聞いた。

「マスコミ人気がなくなった」という認識の誤解

 そもそもマスコミ業界の人気低迷は事実なのだろうか?

「NHKは別として、就職人気企業ランキングからマスコミ系の企業名が減ったのは確かですね。しかし、それだけで安直に“マスコミ人気の低迷”と解釈するのは早計でしょう。というのも一昔前までは、マスコミのような花形業界に記念受験のような感覚で応募する学生がかなり多かったのです。そういう背景から応募数が膨らみ、人気業界のイメージがついたのかもしれません。

 ですが、そういった冷やかし半分の学生が減少した現在は、本当に強い思いでマスコミ業界を志望している学生のみがエントリーしているのです。ですから応募人数は減ったかもしれないですが、マスコミ業界を目指している人は現在でもそれなりに多いですし、“人気がなくなった”という認識には誤解があると思います」(岩田氏)

 かつては何千倍といった倍率もあったのかもしれないが、記念受験のような感覚の学生のエントリーが多かったのだとすれば、現在の熱意ある学生ばかりが志望して倍率が100倍の会社があったとしても、競争の激しさが大幅に緩和されているというわけではなさそうだ。

採用枠が少ないのは業界内を経験者が循環するから

 マスコミ関係企業への応募数が減少したとはいえ、前述したとおり依然として出版業界は高倍率を誇る。

「出版はいわばB to Cの業界。そのため子供の頃から慣れ親しんでいる書籍、雑誌、コミックがある人たちが、出版業界に憧れるというのは当然の図式ですから人気もあります。特に小学館・集英社・講談社・KADOKAWAといった大手出版社の人気はいまだ健在です。

 さらに、人気が高い割に出版社の例年の新卒採用人数は非常に少ない。大手の場合は20~30人ほど新卒採用することもありますが、中小出版社ですと年に1~2人しか新卒採用しないというケースも多いのです。その少ない席を求めて学生が殺到するため、必然的に超高倍率となっていくのです」(岩田氏)

 定員が少ない理由は、出版不況といわれる昨今の経済状況のみならず、出版業界の特殊な人事事情も影響しているという。

「実務経験がものを言う出版業界では、3年ほど勤めれば他の出版社への転職も比較的簡単にできるため、経験者が業界をぐるぐる循環する傾向が強いです。ですからすぐに人手が欲しいときは中途採用に頼ることが多く、他業界よりも新卒採用をする必要性に迫られていないのでしょう。

 とはいえ、若い人材を一定数入れてアップデートを続けなくては、社内に新しい感性が生まれづらく停滞状態に陥る懸念があるため、少数ですが新卒採用も続けているのでしょう」(岩田氏)

 確かに出版社の求人情報を見ると、経験者限定で募集していることも多い。しかし裏を返せば第一志望の出版社に合格できなくても、一度出版業界に入り込むことができれば、最終的に希望の出版社に入れる可能性もあるということだろう。

 また、現状は枠の少ない新卒採用だが、出版業界の景気にも少しずつ変化が現れ、その恩恵を受けられる可能性もあるそうだ。

「ご存知の通り、出版不況は1998年ごろから止めどなく続いています。しかし実は去年くらいから若干明るい兆しが見え出しているんです。生き残った出版社たちが電子出版市場やウェブ媒体、版権ビジネスに次々と参入したことが功を奏して利益を上げ始めました。東洋経済新報社や文藝春秋がいい例ですね。

 よって今後は、さらに紙媒体だけにとらわれないビジネスモデルに力を入れていく必要が出てくるのです。そういった流れから数年後ぐらいには、若い人材を迎え入れる動きがもう少し活発になっていくかもしれません。また、紙媒体の仕事に就くのは難しくとも、ウェブ媒体の編集やライターとして出版社に入れるようになっていくかもしれません」(岩田氏)

出版社の採用担当者が欲しがる学生像とは?

 では、就活市場で激しい競争が繰り広げられる出版業界を志望するのは、どんな学生だろうか。

「古典的な文芸が好きな学生、漫画の編集がしたい学生、ファッション誌をつくりたい学生と、出版を軸にさまざまなタイプがいますが、共通していえることは“好き”な気持ちが強いことですね。

 もちろん本が好きであることは大切なのですが、それだけでは出版社には入れません。採用担当者は、基礎的な日本語力、コミュニケーション能力、対象を面白がれる力などを見ていると思います。最近は企画力を重視する傾向も見られますね」(岩田氏)

 この基本的な観点を軸にしつつも、大手出版社と中小出版社では採用事情は変わってくるという。

「大手はバランスよく多種多様なタイプの学生を採用します。飛び抜けて頭の回転が早い学生も採用すれば、何か面白いことをしてくれそうな学生も採用する、といった具合です。一方の中小出版社では、本当に選び抜かれた1~2人に内定を出す傾向があります。ある意味、“その学生に賭ける”ことになるため、出版社側の思い入れも強いはずです」(岩田氏)

 中小出版社であれば大手出版社と比較してグッと入社難易度が下がるイメージもあるが、大手と違い定員がごくわずかになるため、志望する学生たちは自分自身がどういったタイプか、出版社側がどういった人材を欲しがっているのかの見極めも必要になってくるのかもしれない。

 紙媒体が売れなくなり、“転換期”に突入している出版業界だが、それでも多くの学生が熱い想いを抱いて出版社に入社することを夢見ている。回り道をしてでも、ぜひその希望の道に進んでほしいと願うばかりだ。

(文・取材=福永全体/A4studio)

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A4studio

エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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