傍流部門がしでかした不正だとして、全社的に改革の必要性が共有されたわけではなかった。07年のパネルでの不正では当時の社長が辞任。全社で再発防止に取り組んだが、結局、企業風土を変えることはできなかった。
タイヤ事業の出身者で占める経営陣に危機感が乏しかったということだ。免震ゴムの場合は、子会社で不正を認識してから実際に出荷停止に至るまで1年半を要した。防振ゴムでも、問題の把握から事実を公表するまで2カ月程度かかった。
駒口氏は15年12月に再発防止策を策定。16年1月からは、代表権を持つ会長として経営への関与を強めた。これがタイヤ事業出身の役員と摩擦を生んだとの指摘がある。駒口氏を会長に招いたのは、不祥事を起こした免震・防振ゴム事業を所管してもらい、一連の不祥事を早期に収拾してもらうことが目的だった。あくまで、「非タイヤ事業の抜本的な改革」だけを求めていたわけで、本流であるタイヤ事業にまで駒口氏が介入することは想定していなかった。この認識の違いが、半年での辞任につながったとの声がある。
免震ゴム不正の特損はまだ増える?
免震ゴムをめぐっては、四半期ごとに追加の特損を重ね、15年12月期までに466億円の関連特損を計上した。5月17日には個人株主から、07年から16年5月までの取締役経験者のうち計19人に466億円の損害賠償を求めるべきだとする提訴請求書が同社監査役に出された。東洋ゴムが提訴しない場合は、株主代表訴訟を検討しているという。
関連特損は466億円では済まなかった。16年1~3月期に交換用ゴムや改修工事の費用など、93億円を特別損失として追加計上。関連特損の総額は、とうとう559億円に膨らんだ。
追加の特別損失が出たため、16年12月期の業績予想を下方修正した。営業利益は従来予想を30億円下回る520億円、純利益は60億円下回る240億円になるとした。
国土交通省に不適合と認定された案件は154棟、3000基に達する。免震ゴムの交換作業が進むにつれて今後、特損はさらに増える可能性がある。
15年3月に免震ゴムの不正が発覚し、株価は3月26日に2017円の安値をつけた。その後は、本業のタイヤ事業が好調なことから、8月18日に上場来高値の3030円をつけた。しかし、免震ゴムをめぐる特損の追加計上で、16年12月期の業績予想を下方修正したことを受けて大幅に下落し、6月28日には年初来の安値の959円となり昨年のピーク時の3分の1に落ち込んだ。
カバナンス改革の旗振り役として招いた駒口氏の突然の辞任が、本気で信用を回復する気持ちがあるのかと、投資家の不信を増幅させる。改革は尻切れトンボで終わる公算が高くなった。
(文=編集部)