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レナウン破綻、世界最大だったアパレル企業の転落劇…中国企業にのみ込まれ経営機能不全

文=有森隆/ジャーナリスト
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「レナウン HP」より

 バブル期に世界最大のアパレルメーカーだったレナウンがコロナの谷を滑落した。債権者のレナウン子会社、レナウンエージェンシー(東京・江東区)が5月15日、民事再生法を申請。東京地裁に受理された。「自ら民事再生法申請をしたのではなく子会社(債権者)に申請されるという体たらくぶり。親会社、山東如意科技集団との調整がつかず、経営陣は主体的に動けなかった」(民事再生法に詳しい弁護士)。レナウン側から見れば「(子会社に)民事再生法を申し立てられた」ということになる。負債総額は138億7900万円だ。関係者によると、5月15日が支払期日の手形(合計)8700万円の決済ができなくなったためだという。

 1902年に大阪で繊維卸売業を始める。戦後のグループの創設者は尾上清氏。住友銀行の“ドン”磯田一郎氏と親しく交わり、レナウンのメインバンクは住友銀行だった(“倒産”時点でのメインバンクも三井住友銀行である)。

 磯田一郎頭取の娘、園子さんと2番目の夫、黒川洋氏を結びつけたキューピット役を尾上氏が演じたことで知られている。住友銀行・イトマン事件を取材している時に会ったレナウンの元役員(故人)がこう証言してくれた。

「レナウンの尾上さんと磯田さんは長い付き合いです。47(昭和22)年にレナウンを創立した時からメインバンクは住友銀行。2人は親友でしたね」

 黒川氏が設立したジャパンスコープは「表向きはファッション関係ですが、本当の設立目的は別だった」(同)。この取材で食い込んだ住友銀行の元役員は、「推量ですが」と断った上で、「(磯田、尾上の)2人の利益をプールする会社ではなかったのか。政治資金など、ここから出そうと考えていた」と解説してくれた。しかし、尾上氏はジャパンスコープが産声を上げた1カ月後に亡くなっている。住友クレジットサービスはジャパンスコープからノベルティを仕入れるようになり、アサヒビールにもノベルティを納入していた。アサヒビールの樋口廣太郎社長(当時)は元住銀副頭取で磯田派だった。

 尾上氏が亡くなったのは88年。日本医科大学付属病院で2月9日未明、肺炎で亡くなった。この時点でレナウングループは51社。売上の合計は4000億円。資本金はトータルで300億円。従業員は2万2000人を擁していた。ちなみに直近の2019年12月期(決算期を変更したため10カ月の変則決算)の売上高は502億円。2期連続となる純損失(67億円の赤字)を計上した。19年12月末時点の従業員数は905人である。

尾上氏、イコール、レナウンの時代

 尾上氏にはいくつものエピソードが残っている。1961年、「これからはテレビの時代だ」とテレビ番組の提供スポンサーになることを指示。小林亜星氏作曲の「ワンサカ娘」が誕生。一世を風靡した。67年、NETテレビ(現テレビ朝日)系で「日曜洋画劇場」のスポンサーとなる。映画評論家、淀川長治氏の解説が秀逸だった。テレビCM「イエイエ」がACC(全日本CM協議会)でグランプリを受賞した。

 70年、紳士服の「ニシキ」と提携し、「レナウンニシキ」を設立。紳士服に進出した。レナウンニシキは社名をダーバンに変更。ダーバンのイメージ・キャラクターとしてフランスの人気俳優、アラン・ドロンを起用した。レナウンの株式上場は68年。東証1部に公開した。一方、ダーバンは77年、東証2部に上場した。レナウンとダーバンは2004年に経営統合している。ゴルフの傘のマークで有名な「アーノルドパーマー」ブランドの商品が飛ぶように売れ、最盛期の売上高は2317億円に達した。レナウンが最も輝いていた時期だ。

 1922(大正11)年、英国皇太子(後のエドワード公)が巡洋戦艦レナウンで来日。一緒にやってきた艦がダーバンだった。レナウン、ダーバンの社名はここから取られたと伝わる。

 百貨店の成長とともにレナウンも大きくなった。レナウン自体が出店戦略を考えなくても百貨店がやってくれた。レナウンに勢いがあった頃の話だ。レナウンの機嫌を損じたら百貨店に商品が入らないという事態になった。商品調達に支障が起きたら大変だから、百貨店側はレナウンを大事にした。

 こうした背景があったから、社長の器でない人が永らく社長をやっていても、なんとか会社は存続できた。

四半世紀にわたり経営者が不在

 25年間、四半世紀にわたり経営者不在が続き、2013年、中国の山東如意科技集団の子会社となる。その後、レナウンの社長人事は山東の意向に左右され、さらに主体性をなくした。レナウンは山東と提携するにあたって、自社ブランドで中国市場に大量出店する計画を持っていた。10年5月の記者会見で、北畑稔社長(当時)は「日中企業提携の成功例としたい」と抱負を語った。だが、中国への出店を主導した山東には、チェーン展開のノウハウがなく、立地の良いところに店を出せなかった。

「1000店の目標には程遠く、100店をピークに次々と撤退した」(関係者)

 結局、14年に中国から撤退した。山東はスイスのブランドで靴やバッグを製造するバリーを買収するなど、ド派手なパフォーマンスを見せたが、中国のメディアによると、「買収資金は借金頼み」だった。米中貿易戦争で山東は業績が低下。レナウンは子会社からの支払いがなかったため、19年12月決算で53億2400万円の貸倒引当金を計上する破目に陥った。

 こんなこともあった。今年3月26日に開催されたレナウンの定時株主総会で、神保佳幸社長と北畑稔会長の取締役再任の議案について、株式の過半を持つ筆頭株主の山東が反対し、否決された。両氏は取締役の職を解かれた。社外を含めた取締役10人のうち、両氏を除いた8人は再任された。総会後の取締役会で毛利憲司取締役兼上席執行役員が社長に昇格した。

 売掛金の回収をめぐってレナウンと山東が対立していたが、これが大株主の山東が社長、会長の続投を否決した理由だ。過半の株式を保有する山東が、伝家の宝刀を抜いて、盾突くレナウンの両首脳の首を切った、というのが真相だ。名門レナウンといえども、中国資本にのみ込まれた以上、彼等の言いなりになるしかないということだ。

 レナウンは3月27日、親会社である山東の邱亜夫董事長が26日付で会長に就任したと発表した。国内市場を毛利新社長、海外事業を邱亜夫会長が担当することになった。

行き詰まりの原因はこれだ

 百貨店の売上が全体の7割を占めていたため、コロナ感染拡大の影響は月を追うごとに深刻化した。百貨店の臨時休業の拡大とともに休業せざるを得ない店が増加。3月の既存店売上は前年同月比4割超減、4月のそれは2割弱に減った(81%減ということである)。百貨店の一斉休業で現金(キャッシュ)が入らず、資金繰りに行き詰った。買収して、主力百貨店向けに販売してきた、英国の高級ブラド「アクアスキュータム」も不振だった。

なぜ、レナウンは生き永らえたのか

 1970年代に一世を風靡したブランド力があったから、カネを出すスポンサーが二度現れ、救われた。最初は2005年。投資ファンド、カレイド・ホールディングス。和製ファンドの草分けである。カレイドは100億円出した。この100億円は5年しか持たず、砂漠に水をまいたようになった。

 次に現れたのが中国の山東である。10年に40億円、13年に30億円を出資した。山東との資本提携を機に社長に就任したのが、今年3月の株主総会で会長を解任された北畑氏だ。10年間社長をやり、業績を回復させることなく、19年5月に会長に昇格した。取引先はレナウンの歴代社長を「まるで庶務課長のようだった。何も決められなかった」と、ため息をつく。

 少子化に伴う市場の縮小や、ユニクロなどファストファッションに押され、資金繰りが悪化。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出の自粛が、とどめを刺した。12月末の「現金および現金同等物」は、わずか14億円。資金は底をついていた。今後、1カ月以内にスポンサーを探すとしているが、難航するだろう。山東経営危機と伝わってくる。民事再生法を申請された以降も、山東からの連絡はないという。山東との関係の整理が重要になる。アパレルへの本格進出を狙っている家具・インテリアのニトリホールディングスが触手を動かすかに関心が集まる。

 今後は、ゴルフ工場運営の太平洋クラブをはじめ多くの債権を手掛けた永沢徹弁護士が管財人になり、手続きを進める。10月に債権者集会を開き、再建計画の認可を得たい考えだが、スポンサーが現れるのだろうか。10年前ですら中国企業しか支援者はいなかったわけだから前途多難だ。

 奇しくも、一時期提携していた米衣料品チェーン大手、Jクルー・グループが5月初めに米国連邦破産法11条(チャプター11、日本の民事再生法に相当)の適用を申請し、行き詰った。レナウンの株価は5月18日、ストップ安(30円安)の48円。5月20日は20円(安値19円)まで下げた。上場廃止は6月16日。

 5月18日、レナウンと同じく百貨店を主要な販路とする三陽商会が一時、7.0%安。オンワードホールディングス、ナルミヤ・インターナショナル、タカキューなども急落した。紳士服量販店の青山商事は10.6%安。中国系資本の連想ゲームでラオックスも安かった。そうなってほしいわけではないが、上場企業の倒産第2号の候補もアパレルか。さもなければエレクトロニクスの“ゾンビ企業”か。民間信用調査会社の幹部は「上場企業の倒産が片手(5社以内)に納まれば御の字」という厳しい見方をしている。

(文=有森隆/ジャーナリスト)

有森隆/ジャーナリスト

有森隆/ジャーナリスト

早稲田大学文学部卒。30年間全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書は「企業舎弟闇の抗争」(講談社+α文庫)、「ネットバブル」「日本企業モラルハザード史」(以上、文春新書)、「住友銀行暗黒史」「日産独裁経営と権力抗争の末路」(以上、さくら舎)、「プロ経営者の時代」(千倉書房)など多数。

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