なぜ世界最大アパレルだったレナウンは倒産したのか?“頭脳&変化なき”放漫経営の末路
昨年から不透明な会計処理や定まらない人事、根拠のない販売計画発表などが続いていたレナウンが5月15日、東京地裁から民事再生手続き開始の決定を受けた。1990年代には世界最大のアパレル企業であった名門には、業界のパイオニアとしての輝かしい歴史がある。今回のレナウンの破綻から、“アフターコロナ”における企業の生き残り戦略について探ってみたい。
1.レナウン栄光と転落の歴史
名門と呼ばれるレナウンは、戦前からアパレル産業のトップリーダーであった。創業者の佐々木八十八が1902年(明治35年)に大阪で衣料品の販売を手掛ける「佐々木営業部」を設立。22年1月、イギリス皇太子 (のちのエドワード8世) のお召艦巡洋戦艦「レナウン」を商標とした。供奉艦として同行していたイギリス軽巡洋艦「ダーバン」にちなんで同名のブランドを立ち上げた。
戦後まもなく企業活動を再開したが、60年代の日本の婦人服はオーダー、イージーオーダーが主流であった。そして経済成長で大きく伸びた若者のファッション市場に、当時としては非常に先進的であった既製服を投入した。テレビでのCMが後押しし、百貨店、量販店、町の洋品店まで販路を拡大させ、高いシェアを誇った。
60年代後半に米国のプロゴルファー、アーノルド・パーマーをあしらったワンポイントのポロシャツを発売し、一世を風靡した。70年代には紳士既製服進出時に世界的俳優のアラン・ドロンをテレビCMに起用し、販促活動を展開して一躍、百貨店での存在感を高めた。91年には単体で2438億円、グループ会社のダーバン、レナウンルック(現ルックホールディング)などを加えると3000億円の売上を誇る世界最大級のファッション企業となった。
80年代の財テクでの収益や過去の成功体験で社内の危機感が緩み、商品企画力が衰えていった。90年代に習志野に250億円をかけて超大型物流センターを建設し、時代に逆らうように在庫の絞り込みでなく膨張に拍車をかけた。そして“高すぎる買い物”といわれながらも約200億円で英国アクアスキュータムを買収するなど、イケイケドンドンの経営が続く。
しかし90年代、バブル崩壊で市場が急速に縮小。92年に当時米国で通信販売によって急成長していたJ.CREWとの提携もスタートしたが、店舗展開のみで撤退となった。
91年12月期からは連続の営業赤字を続けた。この放漫経営を許容していた経営陣は、何を考えていたのであろうか。資産売却で不足するキャッシュフローの穴を埋め、人員削減を進めて有能な人材の流出が続いた。99年には当時のメインバンクである住友銀行常務を副社長に、2004年には元オンワード専務などを迎え入れるが、数年後に退社。05年に投資会社カレイド・ホールディングスが筆頭株主になり再建を目指すが、09年に撤退。まさに“枯井戸”状態であった。
09年に子会社アクアスキュータム売却を含む大型リストラと資産売却を発表。そして縁ができたのが中国・山東如意科技集団だった。10年と13年に山東如意は第三者割増の引受先となりレナウンを連結子会社化。そのネットワークを活用して中国で1000店の出店計画を発表したが、実際には100店舗前後にとどまり、山東如意には小売りの経験がなかったこともあり、良いロケーション確保もままならず赤字のため撤退となった。弱者同士の連合は、なんら結果を残せなかった。
23年度が最終年度の中期計画では、基幹3ブランドの売上を1.5倍にすると発表したが、まったく根拠のない妄想である。昨年は希望退職者を募集しながらも中止となった。そして兄弟会社の焦げ付き。親会社からの未回収、人事の混乱。53億円の未回収金が発生したことで退職金の原資不足となり、希望退職者募集が中止になったともいわれている。
一番の被害者は社員である。今回の倒産も社員は報道で知った。905人の正社員、3040人の嘱託従業員、503人の臨時従業員がいるとされる。家族も含むと、どれだけの人たちが将来の不安に怯えて毎日を過ごしていることであろうか。経営陣を非難してもなんの解決にもつながらない。これを他山の石として、企業は厳しい時代を生き抜く方法を模索しなくてはいけない。
2.まとめ
コロナ禍は日本経済社会の底流で長く淀んでいた問題を、一気に表面化させた。長きにわたり将来のヴィジョンを明確に示せず変化できなかったレナウン。これはほかの歴史ある名門企業、日本政府も同一である。稟議制度と呼ぶ無責任体制、年功序列、取引先との仲間意識、危機感の欠如――。
今回のコロナ禍を契機に、多くの企業が素早い対応の重要さを認識したはずだ。幸いにも現在、日本の上場企業の内部留保は約460兆円、個人資産は1800兆円、政府の対外資産残高1018兆円と、増加傾向にある。純対外資産残高は世界一である。日本経済には、まだまだ生かされていない再生のための材料が存在する。
変化の目まぐるしい世界の中で、過去の成功体験を生かす機会はもうないことを、レナウン倒産から我々は学ばなければならない。
(文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師)