新型コロナウイルスによる影響が直撃し、経営再建中のRIZAPグループが深刻な状況に陥っている。同社が6月10日に発表した2020年3月期連結決算(国際会計基準)は、最終損益が60億円の赤字(前期は194億円の赤字)となった。前期に計上した事業構造改善費用がなかったため赤字幅は改善したが、新型コロナの感染拡大の影響で収益力が落ちた店舗の減損損失を計上するなどで巨額の赤字計上を余儀なくされている。
売上収益は3.8%減の2029億円だった。19年4~12月期までの収益は計画に対して堅調に推移していたが、新型コロナの影響で主力のフィットネスジム事業の入会者が激減。同事業を中核とするRIZAP関連事業の売上高が落ち込んだ。また、傘下企業の業績が悪化したことも響き、通期の収益は計画を大きく下回った。営業損益は7億5200万円の赤字(前期は83億円の赤字)だった。
RIZAP関連事業の売上高は401億円で、前期(413億円)から減少した。それまでは右肩上がりで伸びていたが、ここにきて急ブレーキがかかった。ジムの入会者数は、1月は前年同月比8%増と伸びていたが、2月に千葉県のフィットネスクラブで新型コロナのクラスターが発生したこともあり、同月の入会者数は12%減と落ち込んだ。その後は店舗の休業なども加わり、さらに落ち込んでいる。3月が57%減、4月が89%減、5月(速報値)が94%減だった。これに伴い会員数は伸び悩んだ。ここ数期は年に2万人以上増えていたが、20年3月期の1年間は、2月と3月の入会者数の落ち込みが響き、2万人を下回った。
ジムは今後も厳しいだろう。新型コロナの感染拡大に伴う自治体からの休業要請を受けて、全ジムの休業を余儀なくされた。6月1日からは、休業要請の解除を受けて全店舗の営業再開に漕ぎ着けたが、感染リスクが高いとされる「3密」のイメージが強いジムの客離れが今後も懸念される。
ただ、ジムにおいて、感染拡大防止のための「新しい生活様式」に対応したサービスの提供を始めており、業績が回復する可能性がないわけではない。自宅にいながらオンラインでトレーニングの指導が受けられるサービスを5月に始めたのだ。これにより3密を回避して利用者に安心してサービスを受けてもらう考えだ。また、企業研修などに提供する法人向け健康セミナーのオンライン化も始めている。在宅勤務など自宅で過ごす人向けの運動を動画で配信している。こうした非対面型のサービスが広がれば、業績はある程度回復するだろう。
傘下企業も軒並み厳しい状況に
主力のジム事業だけではなく、M&A(合併・買収)で傘下に収めた企業も厳しい状況にある。RIZAPはこれまで経営不振の企業を買い漁り、それらを立て直すことで事業拡大と業績拡大を図る戦略をとってきた。だが、立て直しはうまくいかず、19年3月期に194億円もの最終赤字を余儀なくされた。
ただ、20年3月期は不採算事業の撤退やてこ入れが一定程度功を奏し、収益性は上向きつつあった。子会社でフリーペーパー発行のぱどや、アパレルの三鈴を売却するなどして不採算事業の撤退を進めた。
その一方で、手元に残した企業のてこ入れで成果が出たところもあった。
カジュアル衣料品販売のジーンズメイトは、不採算店の閉鎖を進めるなどして収益性は改善。18年3月期に赤字だった最終損益は、19年3月期には黒字を達成している。このようにRIZAPによる立て直しで業績が上向いた企業は少なくなかった。
しかし、新型コロナの影響を受け、傘下企業の多くは収益が悪化。一時グループ全体の7割の店舗が休業に追い込まれた。ジーンズメイトは新型コロナの世界的な流行の影響で、取り込みを強化していたインバウンド(訪日外国人)需要が急減したほか、国内における外出自粛や店舗の臨時休業、営業時間の短縮などで売り上げが激減。それにより、20年3月期の最終損益は8500万円の黒字を見込んでいたが、3700万円の赤字(前期は1900万円の黒字)に転落した。
雑貨店運営のHAPiNSやゲーム・CD販売のワンダーコーポレーション、補正下着の販売や結婚式場の運営などを手がけるMRKホールディングスなども新型コロナの影響で業績は計画を下回った。
もっとも、傘下各社における電子商取引(EC)の伸びが、新型コロナの影響による売り上げの落ち込みをある程度補っているので、悲観一色というわけではない。アパレルのアンティローザはECを強化した結果、20年3月期の売上高は前期比2倍に伸び、利益も大幅に増えたという。新型コロナの影響で一時全店の休業を余儀なくされたが、ECで補うことができた。
雑貨を手がけるイデアインターナショナルも、EC強化が功を奏している。19年7月~20年3月期のEC売上高は、過去最高を記録するほど好調だった。イデアも新型コロナの影響で一時全店の休業を余儀なくされたが、ECが店舗の落ち込みを補い、総売上高は前年並みを実現している。
だが、全体としては、厳しいと言わざるを得ない。やはり本業のジムが、新型コロナによって落ち込んでいることが大きいだろう。今後は非対面型サービスで補うとはいえ、限界がある。メインは店舗でのトレーニングとなるが、3密懸念に加え消費の冷え込みでRIZAPジムのような高額商品・サービスへの支出を減らす動きが強まることが予想される。会員数の大幅減少は避けられないだろう。もし本業が衰退してしまえば、傘下企業の再生も危うい。
ライザップは今、正念場を迎えている。