新型コロナ禍において、ドトールコーヒーショップを展開するドトール・日レスホールディングス(HD)と「コメダ珈琲店」を展開するコメダHDで業績の明暗が分かれている。ドトール・日レスHDは大幅な減収、赤字になった一方、コメダHDは減収減益ながらも減収幅はそれほど大きくなく、黒字を確保している。何がこうした違いをもたらしたのか。
ドトール・日レスHDの2020年3~5月期連結決算は、売上高が前年同期比42.5%減の189億円、最終損益が45億円の赤字(前年同期は18億円の黒字)だった。同社はドトールコーヒーショップなどを運営するドトールコーヒーと、パスタ専門店「洋麺屋五右衛門」などを運営する日本レストランシステムの2つの会社を軸に事業展開しているが、ドトールコーヒーは売上高が40.4%減の117億円、最終損益が24億円の赤字(前年同期は8億円の黒字)だった。
ドトールコーヒーの既存店売上高は3月以降、大きく悪化している。3月が前年同月比22.1%減、4月が64.1%減、5月が63.5%減だった。6月も33%減と大幅減だ。店舗の臨時休業や時短営業、外出自粛などが響いた。
一方、コメダHDは業績が悪化したものの、ドトール・日レスHDほどではない。コメダHDの20年3~5月期連結決算(国際会計基準)は、売上高が19.9%減の59億円、最終損益が52.2%減の6億円だった。
コメダHDの既存店のフランチャイズ(FC)店向け卸売売上高は、3月以降はドトールコーヒーの既存店売上高同様に落ち込んでいる。ただ、落ち込み幅はドトールほどではない。3月が9.5%減、4月が46.9%減、5月が28.7%減、6月は14.5%減だ。コメダHDのほうが軽微で済んでいる。
同社のFC店向け卸売売上高はFC店への食材や消耗品などの提供による売り上げの一方、ドトールの既存店売上高は直営店とFC店の合計売り上げとなっており、両者の意味合いは異なるので単純比較はできないが、両社の既存店業績の落ち込み幅の違いが全社業績で明暗が分かれたことに大きく影響したといっていいだろう。
ドトールとコメダの業績の明暗が分かれた理由
ドトール・日レスHDとコメダHDで業績の明暗が分かれた理由のひとつは、直営店とFC店の比率の違いが大きい。直営店中心の経営とFC店中心の経営とでは、一般的に直営店中心のほうが固定費割合が大きくなりやすい。固定費割合が大きいと、小さい場合と比べて売上高が高まると利益はより大きく伸びる。逆に、売上高が低下すると利益はより大きく落ち込んでしまう。固定費がレバレッジ(てこ)となって、利益を大きく上下させるのだ。
コメダHDの直営店比率は5%程度の一方、ドトール・日レスHDは半分程度。主力のドトールコーヒーショップの直営店比率は2割弱と小さいが、ほかの業態は直営店が多いため、全体では半分となる。同社はコメダHDよりも直営店比率が大きく、新型コロナによる売り上げの落ち込みで利益が大きく落ち込んでしまった面があるのだ。
立地の違いも大きい。ドトールコーヒーショップは都市部の駅前や繁華街に多く、政府の緊急事態宣言に伴う臨時休業や外出自粛、在宅勤務の広がりなどの影響が直撃した。一方、コメダ珈琲店は駅から少し離れた場所や住宅街に多く、それらの影響はそれほどでもなかった。こうした違いも業績に違いを生じさせた。
コメダ珈琲店はテイクアウト用の商品が充実していることも奏功した。コーヒーなどのドリンク類やハンバーガー、サンドイッチなどがテイクアウトできるほか、テイクアウト専用のカツサンドも販売した。このようにテイクアウト用の商品が充実していたため、新型コロナの影響でコメダ珈琲での店内飲食を控える一方、自宅でコメダ珈琲の飲食物を楽しむ人が続出したのだ。SNS上では「#おうちコメダ」という投稿が多く見られるようになり、コメダ珈琲のテイクアウトに注目が集まった。
こうした施策が功を奏したこともあり、コメダHDでは店舗売上高に占めるテイクアウト売上高の割合が高まった。2月に郊外型店舗で1.5%、都心型店舗で1.1%にすぎなかったが、5月にはそれぞれ10.9%、8.5%にまで高まったという。これにより売り上げ減を最小限に抑えることに成功した。
このように、直営店比率や立地などの違いがドトール・日レスHDとコメダHDで業績の明暗を分けた。ドトール・日レスHDに関しては早急な立て直しが必要だろう。コメダHDにしても、ドトール・日レスHDほどの落ち込みではなかっただけで、大幅な減収減益に変わりはない。より一層の施策強化が欠かせない。
ドトール・日レスHDは主力のドトールコーヒーショップの立て直しが重要だ。短期的な観点では、テイクアウトの強化が欠かせない。中長期的には立地・出店戦略を見直す必要もあるだろう。新型コロナを機に人の滞在が都市部から郊外にシフトする可能性があるためだ。
ドトール以外の業態のてこ入れも欠かせない。同社はほかに喫茶店の「星乃珈琲店」や「エクセルシオールカフェ」、洋麺屋五右衛門など複数のブランドを展開している。ドトール同様にテイクアウトの強化などが必要になるだろう。
コメダHDも、求められていることは同じだ。ただ、中長期的な観点では、さらに踏み込んだ対応が必要になるかもしれない。具体的には、喫茶業態以外の確立だ。同社はコメダ珈琲店以外のブランドが育っておらず、それが今後の成長の足かせになりかねない。
喫茶店は外食産業のなかでも新型コロナ禍に対する耐性が弱い業態といえる。日本フードサービス協会がまとめた5月の外食売上高(全店ベース)は、前年同月比32.2%減だったが、その中の喫茶業態は66.8%減となっており、全体と比べて大きく落ち込んでいる。新型コロナの収束が見通せず、また似たような感染症の拡大が将来的に起きないとも限らないなか、コメダ珈琲店の一本足打法の経営は危険だろう。リスク分散のためにもドトール・日レスHDのように複数の業態を確立する必要があるのではないか。
新型コロナ禍で業績が大きく悪化したドトール・日レスHDとコメダHD。今後の舵取りに注目が集まる。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)