芸能マネが語る「電通案件」の恐ろしさ…クライアント至上主義、タレントの意向を徹底無視
どうも、“X”という小さな芸能プロダクションでタレントのマネージャーをしている芸能吉之助と申します。
マネージャー目線から見た芸能ニュースのウラ側を好き勝手にお伝えする本連載、今回は、ぼくたち芸能プロダクションと広告代理店の関係についてお話ししていきたいと思います。
以前、この連載で、“「CM」はオイシイ仕事である”というお話をしましたね。撮影など制作にかかる時間がドラマや映画に比べて短く、1本で数千万単位の仕事になることも多いCMは、芸能プロダクションにとってすごーくオイシイお仕事。広告代理店は、そういったCMの仕事を持ってきてくれる、とってもありがたい存在なわけです。
【参考記事】「CMギャラ、日本トップは大谷翔平の2億円超?auのCM出演がめちゃめちゃオイシイ理由」
そうした広告代理店のなかでも、群を抜いて大きな力を持っているのが、いわずとしれた広告業界ナンバーワン企業である電通グループ。博報堂、サイバーエージェント、アサツーディ・ケイ(ADK)など、他の広告代理店の追随を許さない業界トップの売上高を誇っています。電通が手がけるCMに出演するということは、トヨタ自動車、大塚製薬、日清食品、NTTドコモ、キヤノンなど、誰もが知る大企業の広告塔になれるという意味合いが強く、“電通案件”は、タレントや芸能プロダクションにとって、喉から手が出るほど欲しい広告仕事である場合が多いのです。
世間に広がる“電通案件”への拒否感
まあ最近では、電通といえば、持続化給付金事業の“再委託”“中抜き”問題が国民の怒りを買い、安倍政権との“近さ”の問題などもあって悪いほうで話題になることも多いですよね。ネットで話題になった『100日後に死ぬワニ』(小学館)が“電通案件”ではないかと大炎上したり(実際どうなのかは不明ですが……)、「アマビエ」の商標登録出願で批判を浴びたりと、“電通案件”という言葉に拒否反応を示す一般の方も増えています。
とはいえ広告業界では、依然として大きな力を持っている代理店であることは間違いありません。電通相手には、「ははーっ!」とひれ伏すような姿勢の芸能プロダクションも多いですよ。
ドラマやマンガでは、現場でムチャぶりをするクライアントとワガママなタレントの板挟みになり右往左往する広告マン……みたいな場面が描かれることがときどきありますが、実際は、全然そんな感じではありません。
ぼくの勝手な認識ですが、電通をはじめ大手広告代理店の人って、ぼくら芸能プロダクションのことは「タレントの仕出し屋」くらいにしか思っていないように思います。タレントと広告代理店、クライアントの間を繋ぐだけの存在だと。もちろんタレントはすごく重要だし、大事にしてくれますよ。ただ、彼らにとって一番大事なのは、当然ながらお金を出してくれるクライアント企業。これは絶対、変わらない。そのクライアントから、「あのタレントいいんじゃない?」と言われたからこちらに声をかけているだけ、ということがほとんどだと思います。
クライアントを優先するあまり、芸能プロ側の意向を無視する強引な広告代理店
でも、ぼくらにとって一番大事なのは、当然ながら自分たちのタレントなので、そのタレントに何をやらせて何をやらせないかというのは、タレント本人とも相談しながらこちらが決めること。そのタレント自身や、タレントイメージを守るために、そこには譲れない一線があります。
「クライアントから依頼されている商品のPRのために多少コミカルな役柄を演じてほしいようだが、タレントのイメージを考えると、そこまでおバカなキャラは演じさせたくない」
「服飾メーカーがクライアントのCMで、メーカーイチオシの下着も着けて写真撮影したいとオーダーがあったが、それは避けたい」
「清純派で売っているタレントなので、お酒のCMに出るのはOKだが、ぐいっと一気飲みしてるさまは避けたい」
……等々、まあクライアントサイドとしてはインパクトのある広告に仕立て上げたいわけで、そうした“齟齬”はいくらでもあり得るわけです。だからこそ、事前にきちんと打ち合わせをして、ちゃんと落としどころを見つけた状態で話を進められればいいのですが、困るのは、クライアントを優先するあまり、芸能プロ側の意向を無視する強引な広告マンが少なからず存在することです。特に、電通の営業担当なんかは、イケイケなのでその傾向が強いような。いや、あくまでも私の個人的な見解ですよ?(笑)
「え、うちのタレントにこんなことやらせられません!」とCM撮影現場で大げんか!?
実際にCMを制作する場合、まず代理店の人が、クライアントの希望を盛り込んで作った企画を「こういう企画があるんですが、どうですか? 面白いですよね!」とぼくらのところに持ってきてくれます。実際は制作会社やキャスティング会社が間に入っていたりする場合が多いですね。ぼくらは、それをスケジュールやタレントイメージに合うかなどを検討して、「ココとココを直してくれるならイケると思います」などと返すのですが……代理店の人は、ぼくらには「わかりました、善処します」なんて言っておいて、クライアントに対しては「事務所さんオッケー出ましたー!」なんて調子のいいこと言って、話を進めてしまうことがあるんです!
そうすると、もう引き返せない状態まで話が進んだところ、本当に撮影の当日とかになって、
「え? コレはできないって言ったじゃないですか」
「でも、言われた部分を(ちょっとだけ)直してあるからできますよね?」
「イヤイヤ、これ全然直ってないですって」
「イヤイヤイヤイヤ、無理ですよ。ここまで来てやってくれないと困りますよ」
……なんていうトホホな状況が撮影現場で発生する、という事態だって起こり得るわけです。
電通のように広告代理店の立場が強いと、だいたい芸能プロ側が折れる場合も多いのですが、ぼくの知り合いのマネージャーなんかは「話が違うだろ! うちのタレントにこんなのやらせる気かー!」と、某広告代理店のCM案件でキレてしまい、その会社から出禁を食らってしまった……なんて人もいます(笑)。
米倉涼子が木馬に乗って跳ね回ったCM……「え、その仕事やっちゃうの?」という驚き
プロダクションでいうと、オスカープロモーションなんかは広告代理店との付き合いもうまく、比較的「なんでもやります!」という姿勢かな。やっぱりそういうプロダクションのタレントはキャスティングされやすく、広告の仕事が多いですね。
読者のみなさんも、湿布薬「バンテリン」(興和創薬)の10年くらい前のテレビCMで米倉涼子さんが木馬に乗って跳ね回っていたり、メガネ型拡大鏡「ハズキルーペ」(Hazuki Company)のコミカルなCMに菊川怜さんや武井咲さんが出演していたりしたのがご記憶にある方もおいでかと思います。このお三方、いずれも出演当時はオスカープロモーションの所属です。ぼくら芸能マネージャーの間では、「え? あのクラスの女優さんにあんなことやらせちゃうの? やっぱオスカーだねー」なんて噂し合ったものです。
オスカーでは基本的にCM仕事に関しては、会社が「やってほしい」とタレントにお願いした案件に関しては、タレント側はよほどのことがない限り拒否しない、という不文律があるといいます。広告代理店からオスカーの会社上層部に持ち込まれ、オスカー幹部が了承したCM仕事に関しては、タレント本人、そしてタレントの現場マネジメント側は基本的には受けるべし、ということですね。
でも、それってただ「オスカーのタレントさんには仕事を選ぶ権利が与えられていない」「オスカーはブラック企業だ」っていうことではなくて、きっと会社の側とタレントさんとの間にある信頼関係とか、あるいはもしかしたらギャラ配分とか、そういう諸々のことがあって、タレントさん本人もある程度納得ずくでやっていることだとは思うんですね。
オスカーのお家騒動が、オスカー所属タレントのCM仕事に影響を及ぼす可能性も
そしてその背景にあったのが、オスカープロモーションの創業者で現会長である古賀誠一氏のカリスマ性、というのは間違いないでしょう。「古賀さんにはお世話になっているから、古賀さんにやれと言われればやります」という信頼関係が、会社とタレントさんの間に存在しないことには、一代であそこまでの巨大芸能プロに育て上げられるわけはないでしょうからね。
ところがこの連載の【第22回】でも話しましたが、そのオスカーがいま、“お家騒動”で揉めに揉めており、さっき述べた米倉涼子さんをはじめ、続々とタレントさんが離れているのは各メディアによってすでに既報の通り。となれば、「オスカーのタレントさんはCM出演に際してなんでもやってくれる」という、広告代理店の側の認識も今後変わっていくかもしれませんし、となれば、オスカーの今後の経営状況もどうなっていくのか……という懸念は大いにありますよね。
【参考記事】当初は批判されたホリプロ、美人姉妹が担うナベプロ…世襲に成功した芸能プロの秘密
さて、最後に少し話がずれてしまいましたが、CM出演は、ギャラ的にオイシイ仕事であると同時に、タレントのキャラクターをお茶の間に浸透させ、今後のイメージも大きく左右するとても重要な仕事。クライアント、広告代理店、タレント、それぞれWin-Winの結果が出せるように、いい関係を築いていきたいものですね。
(構成=白井月子)