Amazonの企業CMが物議を醸している。AmazonプライムのCMに政治学者の三浦瑠麗氏が出演して騒動になったばかりだが、今回は8月1日にYouTubeなどで公開されていたCM動画が注目を集めた。問題の動画はAmazonの物流拠点で勤務する77歳の男性が「Amazonのおかげで毎日が充実しています」と語る内容なのだが、インターネット上では「ディストピアに見える」などと困惑の声が上がっている。
「この年齢で社会貢献」「Amazonのおかげで毎日が充実」
話題になっているのは以下の『Amazonで働くということ 野中勝篇』だ。
CMではAmazonの物流拠点の外観が映し出された後、プラスチック製の折りたたまれたコンテナを積む高齢男性のシーンから始まる。男性はインタビューシーンで以下のように語る。
「入荷担当の方の補助をやっています」
「野中勝といいます」
「年齢は77歳です」
「私の好きな言葉は『毎日が勉強 毎日が青春』」
「仕事も覚えられて 頭の訓練と足の訓練と一石二鳥だなと思っています」
「カスタマーの皆さんは自宅待機をしていると」
「お待ちになっている商品を絶対に遅らせてはならない」
「せめて必需品だけでもお届けできるように頑張っています」
「私がこの年齢で現在社会の一員として貢献しているというように思います」
「Amazonのおかげで毎日が充実しています」
インタビュー中、ベルトコンベアの前で若いスタッフと談笑するシーンがインサートされ、最後にワゴンを運ぶ男性の姿で終わる。
「ディストピア以外の何物でも無い」
Twitter上などでは、このCMに対して次のように困惑の声が上がっている。
「この #Amazon のCM、どんな気持ちで見たらいいんだ… 77歳のじいちゃんを倉庫で働かせて成り立ってる我々のステイホームって一体…」(原文ママ、以下同)
「老人になってもAmazon倉庫で自己成長、みたいなディストピア以外の何物でも無いような有り様が放任され続けてる限りは、社会の加速は止まらないんだろうなぁ、という」
「Amazonの倉庫で77歳で働けて有難いみたいなこと人生のパイセンに言われちゃうと、金さえあれば仕事なんてとっとと辞めさらしたいと思ってるアラフォーの自分が異常者みたいに感じてつらいのでやめてほしい」
「Amazonの倉庫のCMかな?多様性としてはアリなのかもだけど 僕としては早々にリタイアできるだけのお給料をごっそり貰って悠々自適に暮らせる方が断然幸せに感じるだろうなぁ。今だって仕事は遊ぶ金欲しさにやってるから」
「病気になったり、作業スピードが遅かったりすると減点」
政府の働き方改革や国民年金支給年齢の引き上げなどで、ライフスタイルの多様性が叫ばれて久しい。生涯現役を希望する高齢者が増えている一方、40代でも老後の資金に不安がないのであれば引退を選択するケースもあるようだ。しかし、気になるのは実際のAmazonの現場で、CMのような高齢者がどのように働いているのか、という点だろう。首都圏のAmazonのフルフィルメントセンター(FC)に3年前まで勤務していた30代男性は次のように話す。
「私が働いていたFCでは30~50代くらいまでの従業員が多く、60代もちらほらいましたが70代は見ませんでした。人材派遣会社のシングルマザーの派遣社員が中高年層では多い気がしました。とにかく倉庫内は、細かい規則がたくさんあります。これはあくまで個人的な感想ですが、お年寄りには少し酷な現場ではないかと思います。
スタッフは減点制で、例えば1時間の遅刻で1点減点されます。減点が累計6点以上になると解雇になるという話でした。そのほかの減点対象として、私語が多い、飲み物を飲む頻度が多い、病気になった、ワークフローをこなす際にスピード感がないとかがありました。とにかく従業員の一挙手一投足が厳しくチェックされ、問題があれば減点されます。
どうしても高齢の従業員の方だと、スピード感をもって作業をするのは難しいですし、20代や30代のスタッフに比べて体調を崩しやすい方も多いでしょう。しかし、そうした部分で管理スタッフに目を付けられることがあると思います。
『週刊文春』(文藝春秋)でジャーナリストの横田増生さんの報道が公開されてからは、少し緩和されたようにも見えましたが、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい始めてから、再び従業員の監視、管理はまた厳しくなっているようです。とあるFCに勤めている現役従業員の友人からは『コロナ関連に関する従業員間の情報が統制されていて、まったくわからない。派遣元の会社には説明しているらしいが、従業員にはどこの職場で誰が感染したのかなどの情報が一切なく、逆にいろんな噂が飛び交っている』と言っていました。
Amazonはとにかく従業員を統制したがります。コロナ禍で社会貢献を意識できる仕事なのは確かでしょうが、他にもそういう仕事はいろいろありますよね。
一定の社会経験を積み、会社でそれなりの地位を築いていた高齢者が、あの環境で伸び伸びと働けるのかどうか……」
「厳しい職場環境の方が自分に適している」という人もいるかもしれない。仕事に対するやりがいは人それぞれだ。ただ上記のような、職場環境によって支えられているAmazonの物流システムに、手放しで高齢者の就業を勧めるのは難しいかもしれない。
(文=編集部)