今から約1年前、世界の金融市場は、人民元の急落を受けてリスクオフの展開で幕を開けた。中央銀行である中国人民銀行は、ドル売り介入によって人民元の下落を抑制した。そして、株式市場ではサーキットブレーカーが断続的に発動されて取引が停止し、大株主の株式売却制限なども実施された。一連の市場への介入を受けて、「中国政府は意のままに金融市場をコントロールできると考えている」と感じた市場参加者は多かったはずだ。
今年もまた、人民元の動向が市場参加者の関心を集めている。昨年12月の米利上げ、想定以上にタカ派色を強めたFRB(米連邦準備制度理事会)の政策スタンスを受け、2017年も人民元の下落を見込む投資家は多い。経済指標は概ね良好な内容を示してはいるが、住宅市場を中心とする不動産バブルの崩壊、住宅ローンの増加やシャドーバンキング(影の銀行:正規の銀行システムを経由しない資金調達)を介した借り入れの増加など、先行きへの不安につながる要素は多い。
今後の中国経済の推移を考えると、短期的には財政出動を通したインフラ投資などが景気を支える可能性があるものの、少し長いスパンで見ると先行きの懸念はむしろ高まっているとみるべきだ。2017年は習近平国家主席にとって、権力基盤を整備する重要な年だ。3月の全国人民代表大会(全人代)で示される目標に近い成長を達成するべく、状況に応じて追加的な景気刺激策が発動される可能性もある。
市場参加者の懸念を集める人民元安
中国の経済指標をみると、内容はそれほど悪いわけではない。製造業および非製造業の購買担当者景気指数(PMI)は、景気の拡大と後退の境目といわれる50を上回って推移している。12年2月から16年8月まで55カ月続けて前年同月比でマイナスに陥っていた生産者物価指数(PPI)もプラス圏に浮上している。
一方、先行きへの懸念を高めているのが中国の金融市場の動向だ。特に、人民元の下落が進むかどうかが市場参加者の関心を集めている。16年、本土からの資金流出が続いてきたことを受けて、人民元はドルに対して6.9%下落した。民間の債務残高が経済規模の200%を超えるなか、企業の債務返済能力への不安は高まっている。不良債権も増加しており、今後も資金流出は続くだろう。昨年11月の時点で、中国の外貨準備残高は5年8カ月ぶりの低水準まで減少した。資金流出を食い止めるためにドル売り介入が続くと、中国経済のショック耐性は低下する。それは、先行きの中国経済に対する悲観論を高めるだろう。