「経営陣が退陣するというのが会社更生法の一般的な形態だが、今回の再建ではDIP型と呼ぶ別の枠組みを適用する。半導体は専門性が高いため、(半導体の)素人では再建は図れない」
管財人に就任した坂本氏の思惑通りにコトは進む。東京地裁は3月23日、エルピーダの会社更生手続き開始を決定した。現経営陣が管財人となるDIP型適用を、会社側の申請に沿って認めた。晴れて坂本社長が管財人に選任され、再建スポンサー選定の全権を握ることになる。
管財人は5月4日、支援企業を選ぶ第2次入札を行い、2000億円超の買収金額を提示したマイクロンを選んだ。買収資金に加え、約1000億円の設備資金を負担するという内容だ。実は、金額面では、最後まで競り合った中国ホニーキャピタルと米国TPGキャピタルのファンド連合と大差はなかった。
エルピーダの本社で5月6日、坂本社長は経営幹部の意見に耳を傾けた上で口を開いた。「ファンドはいつ出ていくかわらない。マイクロンなら事業は長く続けられそうだ」。こうしてマイクロンに身売りすることが決まった。
語るに落ちるとは、このことだ。とんだ伏兵が入札金額を釣り上げたので、「ファンドはいつ出ていくかわらない」と理屈をこね、米中ファンド連合を排除したのである。坂本氏は経営破綻に至る過程で、マイクロンとは資本・業務提携交渉を、かなり突っ込んで進めていた。マイクロンは自他共に認める大本命だった。
出来レースということは、関係者の間では周知の事実。米通信社、ロイター(4月6日付のニュース)は、1次入札で単独応札した東芝が候補から外れたことについてこう報じた。
〈「坂本社長は、もうマイクロンに決めているのではないか」――。1次入札で脱落した理由について、東芝幹部はこう漏らす。通常なら経営陣は退任するところだが、「DIP型」会社更生の採用が認められ、坂本幸雄社長は留任して支援企業の選定を進めている。同幹部は「東芝が取ったら坂本社長は経営に残れないが、マイクロンなら買収後も残れるのではないか」と勘繰るほどだ〉
東芝だけでなくメガバンクの関係者も、「マイクロンは坂本氏に、それなりの処遇を与えることを約束している」とみている。産活法(改正産業活力再生特別措置法)の適用第1号に認定され、300億円の公的資金を得た会社を潰した経営責任に頬やぶりしたまま、もし、坂本氏がしっかりと自分の地位を守るのだとしたら、明らかにルール違反。ふざけた話ではないか。