障害者の就労支援を行うベンチャー企業、LITALICOの株価が堅調だ。今年に入ってから7カ月ぶりに1500円台を回復し、1月18日には1556円の昨年来高値をつけた。「穐田銘柄の出遅れ」として物色されている。
創業間もないベンチャー企業に資金を供給する“エンジェル投資家”の穐田誉輝氏が投資している企業が穐田銘柄だ。穐田氏は出資して株主になるだけではなく、経営にも携わる。
穐田氏は青山学院大学経済学部卒業後、ベンチャーキャピタル大手の日本合同ファイナンス(現ジャフコ)を経て、ベンチャー投資を行うアイシーピーを設立。2000年、価格比較サイト「価格.com」を運営するカカクコムを買収。01年、2代目社長となり、03年に東証マザーズに上場を果たし、05年に東証1部に昇格。06年に3代目社長にバトンタッチして退いた。カカクコムはグルメサイト「食べログ」が成長し業績も良い。
次に投資したのが料理レシピサイトのクックパッドだ。07年に社外取締役に就任し、上場を指南。09年、東証マザーズ上場を実現する。12年5月から社長になり、多角化を進めた。12年から16年までの4年弱でクックパッドの時価総額を6倍以上に成長させた。
だが、同社の創業者で4割強の株式を握る佐野陽光氏と対立し16年3月、定時株主総会後の取締役会で社長を解任された。
穐田氏は同年8月にクックパッド株式を大量に売却して投資家に戻った。同年10月、不動産情報サイトを運営するオウチーノを買収。買収にはクックパッドを辞めた4人の元執行役員も加わった。
16年12月、穐田氏はクックパッドの子会社で結婚式口コミサイト運営の「みんなのウェディング」(東証マザーズ上場)を、MBO(経営者が参加する買収)を実施して買収した。現在、みんなのウェディングの会長を務めている。同社は穐田氏がクックパッドの社長時代に買収して子会社にした経緯がある。
クックパッドの内紛は、多角化の象徴だったみんなのウェディングを穐田氏が手に入れ、一方、佐野氏は料理レシピ事業に回帰することで決着がついた。
穐田氏による買収が伝わると、オウチーノ、みんなのウェディングの株価は上昇した。カカクコム、クックパッドを優良企業にした穐田氏の経営手腕が高く評価されている証拠だ。
新卒1年で社長に就任
長野県の田中康夫知事(当時)が始めた「コモンズ」という名の地域づくり運動に賛同して、期限付きで福祉幹(課長級)になった佐藤崇弘氏が05年12月、宮城県仙台市で障害者の就労を目的とするイデアルキャリアを設立したのがLITALICOの始まりだ。09年、佐藤氏は仙台市長選挙に出馬するため退任。落選したが、社長に復帰せず、起業家を支援する個人投資家に転身した。
佐藤氏の後を継いで社長に就いたのは、長谷川敦弥氏だ。長谷川氏は、08年に名古屋大学理学部を卒業して入社。佐藤氏に見込まれ、1年後の09年8月、社長に大抜擢された。
もともとは障害者の就職支援が主な事業だったが、長谷川氏が社長になってから発達障害のある児童を支援する教育事業に乗り出した。障害を持つ人が自立するには、大人になる前の成長過程から支援が必要だと考えたからだ。その後も、子育て情報サイトや放課後デイサービスなど、障害を持つ子どもとその家族を対象とした事業を拡大している。
14年6月、イデアルキャリアからウイングルと変わっていた社名をLITALICOに変更。16年3月、東証マザーズに上場した。拠点数は障害者就労支援サービスが58、発達障害児支援の学習教室が70、ものづくり教室が5の計133(16年9月末)で、17年3月末には143に拠点を増やす計画だ。従業員は1490人。
上場初年度の17年3月期の売上高は前期比18%増の85億7300万円、営業利益は同20%増の6億7400万円、純利益は同36%増の4億700万円の見込み。
穐田氏は14年10月、インターネットサービスを展開していくために、LITALICOの社外取締役に就任した。インターネット事業を拡大し広告収益を安定させ第3の柱に育てていく計画だ。東証マザーズへの上場も指南したが、株式新規公開(IPO)後に社外取締役は退いている。
穐田氏が上場にかかわったのは、カカクコム、クックパッド、みんなのウェディングに続きLITALICOで4社目だ。同氏はLITALICOの発行済み株式の9.8%にあたる170万株を保有する第3の株主。筆頭株主は長谷川氏の32.0%・556万株、2位は佐藤氏の18.2%・316万株である。
時価総額を飛躍的に高める穐田氏の手法は“穐田マジック”と呼ばれている。
(文=編集部)