しかし、東北を訪れる観光客の減少理由は、震災や原発事故の影響ばかりではない。確かに現在も東北地方は震災の爪跡が残り、原発事故の風評被害も絶えない。そうしたマイナス要因を差し引いても、東北地方の観光客数はほかの地域よりも圧倒的に少ない。杜の都・仙台を擁する宮城県でさえも、訪日外国人の延べ宿泊者数は年間16万人(2015年)。これは47都道府県中32位に当たる。
LCC就航に期待かかる
実は観光業界において、東北は国会議員や市区町村長をはじめ、観光関係者から“東北一人負け”と認識されていた。ある地方自治体関係者は、東北の観光事情をこう漏らす。
「訪日外国人に人気が高いのは、東京―大阪間のゴールデンルートですが、最近はゴールデンルートが定番化しすぎてしまい、訪日外国人観光客のリピーターはゴールデンルートから足を延ばして北陸や九州などに行くことが多いようです。訪日外国人観光客といっても、多くを占めるのは中国・韓国・台湾・香港。それらの国々の観光客から人気になっているのは九州です。人気の理由はいろいろありますが、距離が近いということも一因です。一方、東北は東アジアからだと羽田・成田から新幹線を使うのが一般的なアクセス方法でした。そうした乗り換えの手間、交通の便の悪さが響いて敬遠されていたのです」
東北一人負け状態に、政府も危機感を強くしている。昨年1月、政府は「東北観光アドバイザー会議」を設置。東北へ観光客を誘致するように取り組んでいる。そして昨年6月、仙台空港と台湾・桃園空港間でLCCが就航し、ようやく東北にも追い風が吹き始めたようにみえる。
「LCCが仙台空港に就航することで、台湾から多くの観光客が来ることは確かでしょう。しかし、そのまま東北を素通りして北海道に行ってしまう可能性もある。北海道はシンガポールやタイ、インドネシア、台湾から人気が高いエリアです。『LCCが就航した』というだけであぐらをかいていれば、仙台空港は単なる北海道の玄関になってしまうのです」(前出・自治体関係者)
今般、外国人観光客は日本経済を支える貴重な存在にまでなり、地方都市においては地域再生の救世主ともいわれるようになった。東北地方はこうした外国人観光客をうまく取り込めておらず、まだ課題を残したままだ。さらに観光業を活性化させて、東北は東日本大震災から完全復活を遂げることはできるのだろうか。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)